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第16回 ほん吉 加勢理枝さん

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profile:かせ・りえ。『よみた屋 吉祥寺店』の副店長を経て、2008年下北沢に『ほん吉』をオープン。
◯東京都世田谷区北沢2-7-10 ☎03-6662-6573 
12:00〜22:00 火曜日定休(祝日は営業の場合あり) 

「本屋さんって、意外と多い」。この取材を始めて気づかされました。
住んでいる街に入ったことのない本屋がありませんか?
まずは入ってみて、できたら本屋の店主に好きな本を聞いてみると、思いもよらないおもしろい話が聞けるんです。
そこには、本屋を始めるきっかけになった本、人生を変えた本など、その本屋さんにとって大事な本が必ず存在する。
当たり前かもしれないけど、“本屋の主人の本の話”はおもしろい。
このブログでは、そんな本フリークな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。「Diggin’ Books」毎月更新! 

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今回お邪魔したのは、下北沢は本多劇場の近くに店をかまえる古書店『ほん吉』。5年前にオープンしたこのお店は、だれもが気軽に入れる街の古本屋さん。でも、ちょっと変わった特徴があるんです。それは、普通の本屋さんと違ってジェンダーの本がラインナップの中心だということ。

そもそもジェンダーって? 「性」に関することというのはわかるけど、聞いて浮かぶのは女性に関する社会的な問題だったりする。

正直難しそうで、今までの自分自身には馴染みのないテーマだけど、加勢さんのお話を聞いてみると、それだけじゃなかった!今回は加勢さんにお店を出されたきっかけやこだわりを伺いながら、ジェンダーの本の面白さについても教えていただきます!

みんなもジェンダーの世界に飛び込んでみよう!

『ほん吉』
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— 加勢さんが『ほん吉』をオープンされたきっかけはなんですか。
「もともとキャラクターの商品を制作する会社に務めていたのですが、ちょうど『自分が長く続けられる仕事はなんだろうか』と考えていたときに、よく行く吉祥寺の古書店で求人の募集を見かけたんです。小さい頃から『将来は自営業をしたい』という夢があったので、『本屋さんを出す勉強ができたらいいな』と思って働き始め、その後『ほん吉』をオープンすることになりました。『ほん吉』という名前に特に深い意味はないんです(笑)。何のお店かすぐにわかって、小さな子どもにも読める名前を、と思って付けました。実際に近所の子どもたちが『ほん吉〜!』って叫びながら前を通っていったりするんですよ」

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— お店に入ると普通のお店にはあまりない、女性をテーマにした本やジェンダーについての本がたくさんありますよね。
「そうですね。あとは、思想・哲学に関する本も多いです。フェミニズムの本は一般的には売れ筋の分野ではないと思いますが、もともと私がジェンダーに関する本に興味があって、たくさん置いていたからか、自然にそういうテーマの本を探しにくる人も、譲りに来てくれる人も多くなりましたね。とはいえ、何かを研究している人でも、その分野の本ばかりを読むわけではありません。それに自分のためだけではなく、家族のために本を探すこともある。社会学や精神医学など専門的な本から料理など実用の本まで揃った、何か困ったときにまず立ち寄れる街の本屋さんでありたいと思っています。そして、そのあらゆるジャンルの軸としてジェンダーや思想・哲学の本があるという感じですね」

— そもそもジェンダーに関する本はどういったものが多いのでしょうか。
「ジェンダーは、生まれたとき決められた男や女といった性別のことではなく、その時代やその地域の社会で作られる『男性らしさ・女性らしさ』の規範(~であるべき・~するはずだ)のことです。だから、本の内容は性差別などの明確に『問題』とされるもののほか、『男らしさ・女らしさ』とはそもそもなんなのか、そのまなざしがどのように発生しているのかを考えるものが多いです」

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— ところで、加勢さんがジェンダーに関する本に興味を持ったのはどうしてですか。
「小さい頃から自分が女であることやその扱われ方に違和感を感じていました。みなさんも、例えば女性であれば、社会にでたときに『なんで女の子っていうだけで、可愛らしく男の人にお酌しなきゃいけないんだろう』などと感じることがあると思います。小さなことも含めて、「かくあるべし」に合わせることを窮屈だなと感じたんです。それで、『そもそも、なんで社会では男女で要請に違いが生まれるのか』という疑問に答えを見つけたくて、本を手にとったのがきっかけです。読んでみると、今感じている違和感がどういう社会背景で生まれたのか、俯瞰することができたんですよね」

— こういう本に興味を持つのはどういったお客さんなんでしょうか。
「多くの人は必要にかられて読むのではないかと思います。それは自分の性別や、自分の性別に対する他人の目に何かしらの違和感を覚えたとき、まずどうしてそうなってしまったのか、理由を知りたいからだと思うんです。いつの時代にもそれぞれジェンダーに関する本が書かれていて、もちろんお客さんも、世代、性別関係なく色んな方がいますよ。本を譲ってくださるのは比較的年配の方が多く、購入されるのは若い方が多い印象です」

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— 本の内容は時代や地域によって変わるとのことでしたが、具体的にはどのような違いがありますか?
「どんどん変化しているので、歴史の本を読む感覚と同じです。たとえばつい数十年前でも『女性は、食事を土間で摂るものだ』とか、初めて聞けば『そんなこと本当にあったの?』と思うようなことがあります。最近のことなのに、今現在の感覚とはまったく違いますよね。そういった事実を知る行為がすごく大切だと思います」

— ジェンダーに関する本に馴染みがない人って多いと思うんですが、そういう人でも気軽に読むためのポイントはありますか?
「ジェンダーというと難しい印象があるかもしれませんが、本当は誰にも関係の深い、日常にあることがらです。ポパイの読者の方でも、過剰に『らしさ』を期待されて『自分のままじゃいけないの?』と思ったり、『男』『女』として扱われることに居心地の悪さを感じたり、あるいは自分が意識せずに『あたりまえ』と思って発した言葉で相手を傷つけてしまった経験などがあると思います。そういうふうに考えると、ジェンダーというテーマを身近に感じられると思いますよ」

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『性別』に関する悩みを持ったときに読まれるジェンダーの本。その悩みは、その人がいる社会や時代によって全く違うけど、本を手に取る人々の『自分らしく生きたい』という思いは時代を超えてもずっと変わらない。自分たちにとってもジェンダーの本は“男性らしさ”、つまり自分がどう生きたいかを考えるきっかけになりそう。いきなり難しい本を読むのは大変だけど、加勢さんが「ジェンダーや思想・哲学の本があらゆるジャンルの軸」とおっしゃったように、自分なりに『男らしさとは』 『自分らしさとは』という視点を持って興味に合わせた本を読んでみよう!
 
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写真は大正時代に書かれた男性向けの西洋マナー本。本の途中にはもとの持ち主の、食事会に向けた予習のような覚え書きが。当時いかに外来の文化を習得することがかっこいい男性だったのかが伝わってくる。他には戦前のプロパガンダ雑誌に『軍服を着て戦う男が硬派でかっこいい!』という特集も発見!どっちも今の時代の男らしさとはかけ離れているけど、今でもよく見かける『こういう男がかっこいい!』という理想を追ったテーマは昔からあったみたい。 

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「人には自分なりの視点を持って本を探し出す嗅覚や、楽しんだりする力がある。お客さんの力を信じています」と語る加勢さん。
そこで今回は加勢さんに手伝ってもらいながら、自分なりに「ジェンダー」に関する本の発掘に挑戦!

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1st DIG 『性の歴史学 / 藤目ゆき』

ジェンダー本の入門は、加勢さんにもお勧めしていただいたこの1冊!
「公娼制度や優生保護法など、日本の近現代史における国家による『性』の管理について書かれた本です」
中々手に取る機会がない内容だけど、時代の流れを追いながら『歴史書』のように視点を変えて読んでみると読みやすい!今話題になっている社会問題がどういった背景で生まれたのか、この機会にぜひ知っておきたい。

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2nd DIG 『シンガポール土産/ 沼田元氣』 

「詩人、写真家の沼田元氣さんがシンガポールに行ったときのチラシやチケット、写真やお土産をまとめてコラージュしたものです。とても貴重な一品です」
沼田元氣さんが実際に集めたチケットや砂や靴の中敷まで(!)。思い出がたくさんつまったこの一冊(一箱!?)は今でいうZine。女性に向けて『乙女の美学校』を開講し、乙女カルチャーの巨匠と言われている沼田氏。彼の一冊にはたくさんの「女性らしさと可愛らしさ」が詰まってる!
 
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3rd DIG 『優良児的青春を殺虫する毒薬に関する狂気の考察 / 岸田淳平』

「インパクト大のタイトルです。どなたが譲ってくださったか覚えていません」
グラフィックデザイナーとして活躍する岸田氏が、『なぜみんな“いい子ちゃん”でいたいのか』という疑問を問いかけるとともに、生き方を説く、1972年に出された一冊。社会で生活する中で、どう「自分らしい男になるか」、約40年前がどんな世の中だったのか考えながら読んでみたい! もちろん今の自分たちにも刺さるものがあるはず。こんな本もジェンダーの入り口。

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普通の本屋さんでは、小さなコーナーにまとめられているジェンダーの本だけど、ここ『ほん吉』ではそれが主役。

なかなか触れることのないジャンルだったけど、実は『男らしさ』『女らしさ』について書かれたジェンダーの本は、自分たちのことが客観的に書かれた、すごく身近なもの。

ポップなタッチで書かれたものはもちろん、一見ジェンダーに関係のない本も、『男らしさ・自分らしさってなんだろう』というジェンダーの切り口で読めば、色んなことに気がつくはず。

社会的な問題に興味を持ったとき、自分自身と向き合いたいとき、はたまた『女の子の気持ちがわからない!』というときまで、まずは『ほん吉』に行ってみよう。『繰り返し読める内容の本を』というこだわりで集められた、色んな時代の本が手助けしてくれるよ。

取材/文/飯野僚子 写真/宮本賢