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第18回 フォスフォレッセンス 駄場みゆきさん

OLYMPUS DIGITAL CAMERAprofile:だば・みゆき。京都で7年間の書店員経験ののち、2001年12月末三鷹市へ転居。2002年2月5日「フォスフォレッセンス」をオープン。◯東京都三鷹市上連雀8-4-1 ☎0422-46-1004 12:00〜20:00 毎週水曜日、第3火曜日定休 
 
かの寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」と若者に呼びかけました。
たしかに実際に外に出て経験することは刺激的。けど、町に出てみると本屋がたくさんあって、結局また本を読んじゃうよね? それくらい今の東京にはわくわくする本屋さんが溢れているんです。町の本屋は店主のこだわりがつまった、まさに一つの世界。お店に入れば、その主人独自の視点で集められた本が並んでて、自分の知らない世界に連れていってもらえる!
このブログは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今こそ書を探しに町に出よう! 
 
 
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OLYMPUS DIGITAL CAMERA都会の喧噪から離れた、どこか懐かしい雰囲気の三鷹。ここは、太宰治が1939年から亡くなる1948年まで暮らし、「斜陽」や「人間失格」など多くの名作を生んだ場所。今回取材したbook&cafe「フォスフォレッセンス」は、太宰治を愛する駄場さんが、彼ゆかりの地で営むブックカフェ。 
 
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OLYMPUS DIGITAL CAMERA店に入ってまず目に入るのが中央の太宰コーナーと、彼に関する記事の切り抜きやポスター。5.5坪の小さな店内には他にも小説や映画のパンフレット、雑誌がぎゅうぎゅうにつまってて、書店というよりも誰かの書斎っぽい。人の書斎にいるときって、なんかどきどきするよね。 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA―駄場さんは元々お店を開くまでは京都にいたんですよね? 
「大学の頃から、太宰治の研究もあって彼の命日の桜桃忌に何度か三鷹に来ていたんです。それで、いつかここに住みたいとずっと思っていました」

―本当に太宰が好きなんですね。
「そうですね。でも、いわゆる“文学少女”だったわけではないんです。たしかに大学で彼について研究はしていましたが、若い頃は音楽を聴きに外に遊びに出かけるほうが楽しかったくらいですから」 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA―正直、太宰ファン以外は入りづらいお店なのかなと思ってました(笑)。
「そんなことはないですよ!(笑)お客さんの中にも『ちょっとでも太宰について間違ったことを言ったら怒られるんじゃないか』と心配しながらいらっしゃる方もいますが、みなさんそうじゃないって安心されて帰ります。私も彼の作品で未読のものはありますし、それでいいと思ってるんです。これからも人生は続くし、まだ見ぬ彼の作品に出合う楽しみをとっておきたいですね。お客さんも生活の中の楽しみとして彼の作品を読んでいる方がほとんどで、すごく素敵なことだなと思っています」
いい意味で『古本屋の店主っぽくない』駄場さん。太宰を研究する人であり、彼の作品を趣味として楽しむ読者でもあるから、色んな魅力を優しく教えてくれるよ。 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA―そもそも駄場さんが太宰治を好きになったきっかけはなんですか?
「中高生のときに『走れメロス』や『人間失格』を読んだことはありましたが、本当に好きになったのは顔を見てからでした(笑)。大学で文学を勉強していた25歳のとき、図書館でながめていた本に、このバー・ルパンで撮られた写真が載っていたんです。それがあまりにかっこよくて好きになりました。『酒と女』のイメージを持っている人も多いと思いますが、本当によくモテたようです。彼の作品を読んでハマる人はもちろん、まずは太宰治という人に興味を持つ人も同じくらいいて、面白いですよね」
たしかに、彼のような破天荒な生き方は男なら一度は憧れる。ちなみに太宰は斜め30〜40度の横顔で、伏し目がちにするのが決め顔らしい。シティボーイも一つくらいは自分がかっこよく写る角度を見つけておきたいところ。 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA―駄場さんはどの作品が好きですか?
「お店の名前につけた短編の『フォスフォレッセンス』ももちろんですが、特に彼のすごさを感じるのは『斜陽』です。『斜陽』は戦後の混乱期の中で没落していく上流階級の人たちを描いたもの。フィクションだけど作品が発表された当時と時代背景がリンクしているところがとても面白いです。『この作品が世の中を変える』という確信を持って、書きながらすごくわくわくしていたんだろうな、という息づかいが文章から伝わるんです」 
 
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OLYMPUS DIGITAL CAMERA―太宰について書かれた本もたくさんありますよね。
「太宰治は作家の中でも、“王道”のような存在。だから、作家や本に携わる人には、逆に太宰治を好きだと言うのが恥ずかしい方も多いようです。でも、これだけ多くの彼についての本があるということは、彼が与えた影響は大きかったということですよね。中でも野原一夫さんという、太宰と親しかった編集者の『回想 太宰治』はおすすめです。太宰の人柄がいきいきと、よく書かれているんです。彼は写真の資料は残っているけど、映像の記録はありません。でも、この本を読むとなぜか彼の姿が映像のように想像できるんです」 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA―太宰は実際にはどういう人だったのか気になります! どうしても暗い作品のイメージが強いです。
「たしかに『斜陽』や『人間失格』といった暗い作品や、彼の玉川上水での自殺が有名ですよね。少し前までは、『太宰の作品を読む=自殺に興味がある』と捉えられてしまうことも多かったようです。でも、実は太宰は色んな作品を残していて、決して暗い作品だけではないんです。それに、どの作品にも共通して、女性の気持ちを描くのが上手。彼は女性が語っているかのような“女性独白体”を得意としていたのですが、読んでいて『なんでわかるの!?』と思うことが多いんです。それと同時に、時代を越えて女性がどうしても気になってしまう男性を描くのも上手いです。女心をよくわかっていたんですね。シティボーイのみなさんも参考になる部分がたくさんあると思いますよ」 
 
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OLYMPUS DIGITAL CAMERA―ところで、ここに来るお客さんはやっぱり太宰ファンが多いんでしょうか?
「街の本屋なので、色んなお客さんが来てくださいますが、全国から太宰が好きな方がいらっしゃいます。ちょうど『花吹雪』という作品に登場する禅林寺が近くにあって、そこに行った興奮が覚めないうちに太宰トークをしに来る方が多いです。店内にある太宰が好きな味の素の缶やタバコも、そういったお客さんがプレゼントしてくれたものなんです」 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA―太宰ファンにとってもこのお店は特別な場所なんですね。
「私自身、このお店が太宰ゆかりの地をめぐった人が一息つける場所であってほしいと思っているので、とても嬉しいです。お客さんが自由に書き込めるノートを置いていて、みなさん太宰への想いやお店へのメッセージを残して行ってくださるんです。中には太宰のように小説家を目指している方がいて、その場で短い作品を書いてノートに残して行かれる方もいるんですよ。他には太宰風に『ウエスケ(ウィスキー)ください』って洒落で注文される粋な方もいらっしゃるんです。実際にはお酒のメニューがなくて申し訳ないのですが……(笑)」 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERAここにいるとなんだか懐かしい気分になるし、彼になりきるお客さんの気持ちにも納得。お酒はないけど、駄場さんが丁寧に淹れてくれた『太宰ラテ』を飲みながら彼の作品を楽しもう。

それでは、今回も駄場さんに手伝っていただきながら本をディグって来ました。
“太宰治”を必ず好きになる、初心者におすすめの3冊! 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA1st DIG 『URASHIMA SAN』
「太宰治の『浦島さん』を女優の高橋マリコさんが英訳したものです。オカダミカさんのイラストがとても綺麗で、女性も好きそうな、目で見て楽しめる1冊です」
誰もが知っている昔話「浦島太郎」を太宰独自の視点で描いたもの。外国の友達にもおすすめできそう! 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA2nd DIG 『女生徒』
「ある女生徒の1日を綴った作品です。太宰はどうしてこんなに女性の気持ちがわかるの? と、不思議になります。女の子は何を考えているか、若い男性が読んだらきっと勉強になると思いますよ。それに、『人間失格』や『斜陽』とは違った雰囲気なので、太宰の新しい魅力も知れると思います」 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA3rd DIG 『【新訳】走れメロス/森見登美彦』
「これは森見登美彦さんによる『走れメロス』などの近代文学のパロディです。とても面白おかしくアレンジされていて、太宰初心者も間違いなく楽しめる1冊だと思います」
メロスが桃色ブリーフ姿!? 中学時代、国語の授業で『走れメロス』を音読しながら居眠りした人も楽しめるはず。 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA小説家ゆかりの地で、その人の作品を読むとなぜだかわくわくする。 “町の本屋は店主のこだわりがつまった、まさに一つの世界”とはいったけど、ここフォスフォレッセンスはお店の外までにも太宰の世界が広がる。三鷹の太宰マップを持って散歩した後に、珈琲片手に本を読む。きっと一つの世界にこんなに浸れる場所はなかなかない。

駄場さんのおすすめは駅近くの陸橋で、ここから夕日を見るとタイムスリップした気分になるらしい。たしかに、彼の足跡をたどると当時の生活が想像できて、ちょっと堅苦しいイメージの文学にも、親近感が湧く。彼のように作品を作り続け、たくさんの女性に愛された人生は中々送れないけど、こうやって1日だけ太宰になりきるのもありかもしれないね。

取材/文 飯野僚子 写真/宮本賢