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第26回 BOOK AND SONS 川田修さん

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profile:かわた・おさむ|フルサイズイメージ代表。大学卒業後、WEB制作会社に入社。2002年に独立しデザイン事務所「フルサイズイメージ」を設立。2015年に書店「BOOK AND SONS」をオープン。◯東京都目黒区鷹番2-13-3 ☎03-6416-3061 12:00〜19:00 不定休
 
「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。
だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!  
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。
今月も張り切って行ってきます!
  

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突然だけど、タイポグラフィという言葉を聞いたことはある? タイポグラフィとは、活字の書体や、その文字の配列をデザインすることで、「明朝体」や「ゴシック体」なんていうフォントを考えることもその一つ。街で見かけるポスターや、本、文字が関係するあらゆるものは、こうした文字のデザインが考慮されていて、それぞれ使う書体によって僕らが受ける印象は変わる。タイポグラフィは生活にすごく密接なものなんだ。

そんなタイポグラフィに関する本を集めた古書店が、東急東横線学芸大学駅から徒歩4分ほどの場所にある『BOOK AND SONS』。今年4月にオープンしたこのお店で、オーナーの川田 修さんにお話を聞いて来ました!
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川田さんは普段デザイナーとして活躍している方。店舗デザインと照明・棚・スピーカーのセレクトのすべてを彼が手掛け、本屋といえどもすっきりしていて落ち着く。
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店の奥にはギャラリーが併設されていて、ここでタイポグラフィに関するイベントが開かれることも。

―デザインの本の中でもラインナップをタイポグラフィにしぼったのはなぜですか?
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「ここにある本の多くは、もとは自分のコレクションです。僕は専門的な勉強をしないままデザイナーになったので、まずは美大やデザインの学校で基礎教育として学ぶ書体のデザインや配置について知ろうと思ったのがタイポグラフィの本を集めたきっかけです。とはいえ、デザイナーになりたての15年前はタイポグラフィに関する本が日本の書店にはほとんどなく、今も充実しているとはいえないんです。そこで、デザインに携わる人に役立つ空間が作りたくて、この店をオープンすることにしました」

店に並ぶ本は約1000冊。デザイン書というだけあって目にも鮮やかな本がずらり!
―日本の書店には種類が少ないとのことですが、そもそもタイポグラフィに関する和書は少ないのでしょうか?
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「洋書と和書の割合は半分くらいです。フォントが作られるのはやはり外国でのほうが多いですが、日本は“混植”といって日本語とアルファベットを組み合わせて並べる独特な文化があるため、タイポグラフィについて書かれた和書が意外と多いんです。最近は英文だけの作品をデザインすることも増えましたが、よく海外のデザイナーから『日本のデザイナーが配置した英文は読みづらい』と言われることがあるみたいで(笑)。日本においてタイポグラフィは特に重要なものなのかもしれないですね」
たしかに日本では文字を縦書きにしたり、横書きにしたり、複雑な形の漢字やシンプルな形のひらがなやアルファベットを組み合わせたり、外国の人から見たらすごく特殊なのかもね。

ーこれだけ特殊な文字の配置を考えているのに、日本でデザインされた英文が読みづらいというのは意外ですね。
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「日本の文章は文の配置された状態が上下左右揃って箱のようになっていると綺麗だなという印象を受けますよね。一つの単語が行をまたいでもすらすらと読むことができます。でも、英語の場合は一行の長さが揃うことよりも、単語が一列に収まっていることが重要。アルファベットだけの文では、単語が改行で別れてしまうとすごく読みづらいんです。日本語だけの感覚で英語を配置すると、ぱっと見は綺麗だけど読みづらいということが起きてしまいます」
日本の美しさを追求するこだわりが裏目に出てしまうこともあるみたい。

―やっぱり普段使っていない言語を扱うのは難しいことなんですね。
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「でも、日本人の方が外国で読みやすい英語のフォントをデザインしたこともあります。ヨーロッパの地下鉄、バスなど公共の交通機関には欠かせない『ニュージョンストン』という書体を手がけた、河野英一さんがその例ですね。『ジョンストン』という1916年からロンドンの地下鉄で使われていた書体を現代的に改良したんですが、この『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』という本にはその書体が出来た経緯が書かれていて、デザインに携わっていない人でも文字がどんな風にできるのか想像しやすく、楽しめると思います。表紙の看板の書体が元になった『ジョンストン』です」

―なるほど、交通標識などを考えてみると、タイポグラフィがもっと身近に感じられてきました。
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「ブランドやお店のロゴに関する本もおすすめですよ。この『フォントの不思議』という本は誰もが目にしたことのあるファッションブランドや企業のロゴがどんな意図で作られたものなのかを紹介する本です。例えば、ファッション系のデザインによく使われるフォントがあったり、法則のようなものがわかって面白いですよね」
カチッとしたイメージのブランドではドイツで生まれた工業系のフォントが使われたり、『VOGUE』など欧米のファッション誌では「ディド」と呼ばれるクラシックな書体が多用されたりするらしい。よく見るお店の看板の文字も、どんなイメージで使われたのか想像してみるといいかもね。

―ブランドをイメージしてフォントが選ばれるとはいえ、流行みたいなものもあるのでしょうか?
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「デザイナーの気分にもよると思いますが、僕個人の話だと最近は『フルティガー』というフォントをよく使います。これは案内用標識によく使われるフォントなのですが、『サンセリフ』と呼ばれるカチッとした印象の物の中でも柔らかくて、人間っぽさがあって好きなんです」
すごくスマートな印象で、最近誕生したフォントかと思いきや1970年頃にパリのシャルル・ド・ゴール空港の案内表示用に出来たものらしい。今ではヨーロッパはじめ、東京メトロの表示案内で採用されたりと、フォント界のスタンダード的存在?!

それでは、今月もディグって行きます!
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1st DIG「タイポさんぽ―路上の文字観察」藤木健太郎
「グラフィックデザイナーである著者の藤木さんが、日本各地で出会った商店街の老舗の看板やローカルな商品のロゴを紹介しています。こういった昭和のレトロなフォントは地元の看板屋さんなどが独自に考えたものが多いんです。生活の中のタイポグラフィの楽しみ方を教えてくれる本です」
日本には世界に一つしかないフォントが溢れてる!

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2nd DIG「アヴァンギャルド」
「デザイナーハーブ・ルバーリンが作った『アヴァンギャルド・ゴシック』という世界的なフォントがあるのですが、もとはこの『アヴァンギャルド』という美術雑誌のために作られた文字なんです。ブランドや企業のロゴは元々あるフォントのデザインを微調整して使うこともあるんですが、こうやって表現したい内容に合わせて新しく作ることもあります」
このフォント、<アディダス>のロゴにも使われている文字だった! 

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3rd DIG「ぼくのつくった書体の話」小塚昌彦
「毎日新聞の書体デザインに携わったフォント界の巨匠 小塚さんの著作です。『小塚明朝』や『小塚ゴシック』といった自身の名前がついたフォントでもしられています。自伝的な本で、職人側の目線からフォントについて知れる一冊です」
フォントに興味が出て来たら、少し深堀りしてこんな一冊を。日本の小説によく使われる「明朝体」、一番身近な書体については知っておきたい!

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なんとなくはわかっていたけど、使う場所・表現する内容によって文字がこんなにも繊細にデザインされたものだったとは! 専門書といえども、初心者にも親しみやすい本があるから、そこから気に入りのフォントを見つけてみよう。看板だったり、ポスターだったり街で目にするものがまた違った見え方をするはず。かの寺山修司は「書を捨てよ、街に出よう」と言っていたものの、書を読んでから街に出るのもアリだなあ。

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9月からは、店の入り口の脇にコーヒースタンド『BOOK AND STAND』もオープン! ここでは出来る限りお店に長居してほしいということで、コーヒーを飲みながらタイポグラフィの世界に浸ってみるのもいいかもしれないね。

文・写真 飯野 僚子