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第35回 カルロス(23)


夢中なことがあったり、叶えたい目標があったり、誰にも真似できない自分だけの“何か”を持ってる人ってかっこいい。
シティボーイってどんな人のことを言うの!? という問いの正解は決して一つではないけど、彼らが共通して持っているのは、そういう自分の興味に対する強いこだわりなのではないでしょうか。  
 
このブログでは、毎回1人のシティボーイに密着取材。彼らのホームタウンを巡りながら、シティボーイの実態を調査していきます。



週末の渋谷のスクランブル交差点は人が多すぎて憂鬱。いつもどおり“無”になって渡っていたら、人混みの中、異彩を放つ男の子に視線を奪われた。近づいてみると、行ったり来たりしながら通行人の似顔絵を描いている。しかも歩きながら描いたとは思えないほどにめちゃくちゃうまい! それで思い切って声をかけたのが今回のシティボーイ、カルロスさん。「カナダから来て昨年から日本に住んでるよ。今はビザのために千葉の南房総の中学校に赴任して、英語と美術の教師。毎週末、千葉からバスで渋谷に来るんだ!」と驚きのフットワークに流暢な日本語。とにかく気になりすぎるその彼に、話を聞いてきました。場所はもちろん渋谷で!

人通りが激しくなる週末の16時頃からいつも活動をはじめるという彼。取材の日も人が多くて会えるか不安だったけど、キャッチーすぎるトレードマークのおかげで100メートル先からすぐに発見! 

「カナダカラーのマフラーに緑の星のバッジとヘッドフォンは絶対。ヘッドフォンは壊れてしまって音楽が聴けないけど、付けた瞬間に画を描くスイッチが入るからそのまま使っているんです(笑)。キャプテン・アメリカのフリスビーは絵を描く机代わり。3年くらいかけてこのスタイルになったんだけど、常に進化していて、最近は赤の<コンバース>のハイカットも仲間入りしました。 この格好で毎週末いるから、みんな僕のことを覚えてくれるんです。この調子でいつか渋谷の“キング”になりたい! 地元のカナダでも同じ格好をしているんだけど、歩いていると『ヘイ、グリーンヘッドフォーンガイ!』って呼ばれるよ(笑)」
渋谷のキング! なんて大げさに聞こえるかもしれないけど、カルロスさんにとって渋谷で絵を描くことはすごく意味のあることだそう。


「初めて日本に来たのは2010年。交換留学で人と接して日本が大好きになったけど、2012年に渋谷に来たときが一番衝撃的でした。キラキラしているネオンサインに、見たこともないくらいのたくさんの人。とにかくオーラがすごかったんです。人が海に見えました。でも1人1人を見ると『あの客引きのお兄さんは今日どのくらい働いたのかな?』とか『あの可愛い格好をした女の子はこれから誰とデートをするのかな?』とか、みんな個性が強くてその人のストーリーが想像できて面白かった。街にいるとすごく忙しないけど、ここはそんなネガティブなことではなくて色んなことを見つけられるコレクションみたいな場所だなと思ったんです」
初めて渋谷の絵を描いたときの写真とその絵を見せてくれました。



「渋谷を面白いと思う一方で小さい頃から人混みにいると不安になってしまう癖があったんです。たくさんの人が集まると自分はその中の記号の一つで、埋もれていってしまうような気がして。だから人の中に埋もれないように、不安に勝って街を冒険できるように少し変わった格好で、絵を描くようになりました。もちろん5人に1人くらいは僕のことを変な目で見る人がいて、僕もそれは自覚しているんです。でも、それ以上にたくさんの人が僕の絵に純粋に興味を持ってくれる。外国人から見た客観的な日本を、絵を通して知るのは道行く人にも意味があることみたいで、色んな人が話しかけてくれて交流が生まれるから嬉しいです」
彼の絵を見ていると、交差点を“無”になって渡っていたことをちょっと後悔……。

そもそもカルロスさんはなんで日本に住むようになったんだろう。


「学生時代に日本で旅行や留学をして、卒業制作も日本を題材にするくらい大好きになったけど、住むつもりはなかったんです(笑)。大学でグラフィックデザインを勉強して、そのあとにモントリオールの空港に就職。職員向けのマニュアル本のイラストやユーザーインタフェースなど、あらゆるデザインの仕事をしていました。でもあるとき同僚のみんなに『カルロスは仕事を頑張ってるけど、本当にやりたいことなの? いつも日本の話を楽しそうにしてるよ』って言われたんです。職場は大好きだったけど、確かに向き合って考えたら僕のやりたいことは日本に住んでイラストを描くことだと気付きました。それで昨年から日本で教師をしながら、毎週東京に出て絵を描くようになったんです。それでもやっぱりカナダは恋しいけど……」
明るく優しいカルロスさんのことだから、応援したくなる同僚の気持ちがわかります。

仲間の一言で一念発起。晴れて日本での生活をスタートさせたカルロスさんは趣味だけでなく、仕事としてもイラストを描く機会が増えているんだとか。


「渋谷で声をかけてくれる人と友達になって、仕事をもらうこともあります。先日はイベントのパンフレットを作りました! これからどんどん活躍して、応援してくれるカナダの家族や友人に仕事を見せるのも夢の一つですね。あと、普段の教師の仕事でもイラストが役立つことがあって嬉しいです。こどもたちが絵を見ながら英語を楽しんで話してくれて、すごくやりがいがあります」
写真下のカルロスさん自作の『日本での切符の買い方』みたいに英語の授業でも図解しているんだそう。カルロスさんの授業が受けられるの、羨ましい!

というわけで、次に実際に街を歩きながら絵を描く様子を見学させてもらいました。



「歩きながら描くので、テーブル代わりのフリスビーをiPhoneのコードで固定して、そこにペンを挟むのが定番のスタイルです。ペンは下書きのための鉛筆に、影をつけるためのグレー色を濃淡で数本用意しています。そして一番欠かせない筆ペンはすぐに使えるように、そして目立つために口にくわえてることが多いです。以前、普通のマーカーが欲しくてドンキに行ったら筆ペンを見つけて、細い線も太い線も自在に描けるから感動! 以来ずっと使っています」
フリスビーもだけど、iphoneのコードまでもが画材! コードはペンホルダーだけじゃなくて、色味を調節するパレットとしても便利だそう。カルロスさんは創意工夫の塊です。そしてどうやら絵を描く紙にもこだわりがあるよう。


「もともとはノートに描いていたんです。でも、ノートって見開きの2ページだけだから、完成した絵はめくられて、すれ違う人には立ち止まらないと見てもらえない。だから“ジャバラ”にして完成した絵も、描いている途中の絵も1枚の紙にまとめたら、無意識に目に入ると思ってその形にしたんです」
作品は人の目に触れるのが大切だものね。

と感心するのも束の間。道行く人に声をかけられます。この日は仲良しのケバブ屋さんのお兄さんに遭遇。



「ここで出会った人のことはほとんど名前もそのときの会話も覚えています!  僕は視覚で記憶するのが得意だから、その人の絵を描くとなぜか忘れられないんです。どれも大切な思い出だから毎回記念写真を撮っていたらすごい数になってしまいました」
と言って見せてくれたのがこれまたジャバラ式のアルバム。想像以上の数にびっくりです。どれもいい笑顔! 


「こうやって街で見かけて気になった人や、出会った人はスケッチだけじゃなくて、スキャンをしてコラージュしています。これでやっと完成! 東京は古い建物の横に最新のサイネージが置いてあったり、世界の中でも得に色んな時代のものが混ざっているのが面白くてまさにコラージュみたいな場所だと思うんです。それを記録したくて、ハンドライトだけじゃなくて、写真やパソコンで描いた絵も混ぜて作品にしています」
たしかにコラージュみたいな街かも。そんな風に思ったら見慣れた渋谷も悪くない気がしてきた。

最後にカルロスさんのお気に入りスポットに案内してもらいました。


「この路地裏の自販機は僕の秘密の場所。ちょっとだけ喧騒から離れられて、整然とつけられた換気扇や自由に描かれたグラフィックが綺麗で落ち着くんです。ここでアーティスト仲間と夢について話したりすることもあります」


「今の滞在の期限は来年の7月まで。そのあとどうするかが悩みです。でも、今のように普段は東京から離れた場所で地元の色んな人と交流しながら生活して、週末に絵を描きたい! っていう思いを最大限に発散するのは作品をつくる上でいいサイクルのような気がしています。だから今はこの生活をしっかり全うしたい。最近は電線のある街並みに興味があるから、人だけじゃなくて風景ももっと描いていきたいです。ガンバるロス(、、、、、、)!」
お茶目なカルロスさん、最後は得意のカナディアンギャグを披露してくれました(ちょっとダサい芸風がカナダのお笑いのスタンダードらしい)。

きっと今週末も来週末も彼は渋谷を歩き回ってるはず。彼の好奇心の強さと、パワーをイラストに変える力強さなら本当にいつか渋谷のキングになるかもね。

文・写真 飯野僚子