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第36回 七星堂書店 平子北斗さん


profile: ひらこ・ほくと|1979年生まれ。大学卒業後、吉本興業の主宰する劇団に入団し俳優として活動。劇団解散後フリーとして俳優活動を続けながら、神保町の書店にて店員として経験を積み、2015年に『七星堂書店』の店主となる。◯東京都杉並区高円寺北2—4—7 宝ビル2階 ☎︎070•5028•7707 13:00〜21:00 不定休

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!

このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます!

今回お邪魔した高円寺にある『七星堂書店』は、2015年にオープンした演劇のジャンルを中心とした古本と古着の店。なんでも、店主の平子北斗さんは舞台を中心に活動している俳優。演劇といえば、松尾スズキや野田秀樹の舞台は好きだし、興味はあるんだけど、奥が深そうすぎてなかなかちゃんとは踏み入れなかったジャンルだ。役者が直接勧めてくれる演劇の本ならば、なんか、いけそう! というわけで今月は店主の平子さんにお話を聞きました。




店があるのは高円寺駅北口から歩いて2分ほどのところにあるビルの2階。メインの古書と古着のほか、平子さんが骨董市で見つけた雑貨も販売。本を並べる棚も購入可能なものがあったりして、基本的に店にあるものほとんどが商品。


主役の本は演劇を中心にファッション、歴史、建築・デザイン、写真集などがラインナップ。

本誌最新号のファッション特集『春はほんわか、気分はコンサバ。』を読んで、物欲が沸きに沸いている身としては古着のセレクトも気になるところ。この日は’70sの<GOLDEN BEAR>のスエードジャケットを発見。レザーは自分で新しいものを買って育ててもいいけど、やっぱり味が出たものを見るとグッと来ちゃうよね。ラインナップは他にもLevi’sのパンツコーナーがあったりして、古本の“おまけ”とは思えない結構な本気度。なんで古本と一緒に古着も売ることに?


「大学を卒業するタイミングで吉本興業主宰の劇団に入り、2年間そこで俳優として活動をしていました。その後、劇団が解散になってフリーとして俳優をしていたんですが稼ぎがなくて……(笑)。もともと服が好きだったので、俳優を一度休んで専門学校で服作りの勉強を始めたんです。その後、アパレルの仕事をして8年前に俳優業を再開、舞台の衣装製作などもしていました。俳優をしながらもいつか自分で書店を開きたいと思っていたので、アパレルの仕事をした経験も活かして古本と古着の店にしたんです」
自身も服を作ることができるから、商品の中にはリメイクしたものも。写真のブルゾンは肩パットが入ってかなりバブリーだったものを、シルエットを直して現代的に。「この春おすすめですよ!(笑)」と平子さん。だいぶ挑戦的な柄だけど、これなら僕たちも着られる、かも。春は挑戦の季節だし。

古着コーナーの真横はファッション関連の本棚で、服飾史やデザイナーの自伝を中心に展開。

買い物が捗る春は本でも洋服のことを楽しんでもいいかも! あまりメディアに出ることがない<コム・デ・ギャルソン>の川久保玲さんがインタビューに答えた『SWITCH』みたいに、ファッション誌のバックナンバーもたくさんあるよ。

次に、この店の本丸である演劇コーナーを紹介してもらいました。


演劇の中でも『七星堂書店』が力を入れているのが戯曲。さすがは俳優でもある平子さんだから、彼が演じたこともある作品も多く扱っているとか。
戯曲ってちょっと通な趣味のイメージがあるんだけど、その楽しみ方は?


「戯曲は普通の小説とは違って、台本のようなもの。登場人物のセリフを中心に展開されていくし、人物の行動や場面の描写も最小限で事務的。想像力がいるから読み慣れていないと確かにハードルが高いかもしれません。自分自身、純粋に本として戯曲を読んでも、自分だったらどう演じるだろうって考えていて、気づけば普通に読めていないことがほとんどで……(笑)。でも慣れてしまえば、普通の小説よりも感情移入しやすくて物語が映像として浮かぶのですごく面白いです。まずは登場人物ができるだけ少なくて、日本の現代作品を選ぶと読みやすいかもしれません」
そういって見せてくれたのが鴻上尚史さんの戯曲『トランス』。

「これは精神科医とその患者という登場人物3人で、ずっと同じ場面で展開されていくシンプルな話。最後は医者と患者、どっちがどっちだかわからなくなってしまうようなめちゃくちゃな作品なんです。鴻上尚史さんが書く話は社会的なメッセージがあるんだけど、ギャグもありつつストーリーもある。登場人物が少なくて物語を追いやすく、作品自体も面白いので、この辺りから読んでみると戯曲にはまるかもしれません!」
平子さんはこの『トランス』も演じたことがあるそう。


「僕は高校生のときにこの『トランス』で精神患者役を演じました。役者という目線でいうと、普段の自分とはまったく違う人物になれるのが演劇の魅力だと思うんです。また、同じ演目でも演じる人によってまったく違う作品になってしまうのが面白いところ。読み進めながら気になる登場人物がいたらその一人に注目して、なりきってみるといいかもしれません」

平子さんが言うように、戯曲は実際の舞台になったときに演じる人の解釈によって表現が変わるのが魅力。その演者自身が普段どんなことを考えているのかを知るのも演劇を楽しむ一つの手。


「普段誰かになりきっている俳優さんの素顔について触れた本や、俳優自身が綴ったエッセイもおすすめです。特にコミカルな役を演じることが多い古田新太さんや筧利夫さんのエッセイはすごく面白いですよ。普段目にするのは演技をしている姿がほとんどですが、舞台やテレビドラマで見る彼らの強いキャラクターに負けないくらい本人も本当にめちゃくちゃで、笑えます」

というわけで今月もディグっていきます!
今回は「本で演劇入門」がテーマ。

1st DIG『ヨムゲキ』シリーズ


「タイトル通り、読み物として楽しむための戯曲シリーズです。大人計画の松尾スズキさんや宮藤官九郎さんなどが書いた、演劇に馴染みがない人も楽しめるような最近の作品がまとめられています。戯曲には珍しく、舞台装置の図解もあって初心者の人におすすめですよ」
大人計画や劇団新感線など、僕たちが観た事のある作品も中にはあるかも。読むための戯曲とはいえ、俳優の動き方みたいな覚書はそのまま。事務的な記述がシュールで結構癖になりそう。

2nd DIG『自叙伝/大杉栄』と『アナーキー・イン・ザ・JP/中森明夫』

「『アナーキー・イン・ザ・JP』は明治時代のアナーキズム運動の中心人物だった大杉栄の霊がある日突然憑依してしまったパンクロック好きの男子高生の物語。歴史の知識がなかった高校生が大杉栄に乗り移られて、ときにタイムスリップもして歴史的な出来事を経験していきます。この本を読むまで僕自身、大杉栄のことは深くは知りませんでしたが、彼が今生きていたらどう生活するかなどリアルに想像出来てすごく面白いですよ。そこから彼の自伝を読むのもおすすめ」
「演劇の面白さは普段の自分とは違う性格の人にも自然となれてしまうこと」と話す平子さんの言葉の通り、よく役者さんは役が憑依するなんていう話を聞くことがある。一見演劇には関係ないけど、そんな誰か違う人になってしまうことのスリリングさが味わえる1冊。役者さんの気持ちもわかるかも。

3rd DIG『蜷川幸雄の稽古場から』


「故・蜷川幸雄さんの舞台の現場を、彼の作品に出演した俳優たちが語った本です。蒼井優さん、小栗旬さん、長谷川博己さんなど豪華な俳優陣の視点で蜷川さんの舞台作りについて知ることができます。ちなみに撮影は娘の蜷川実花さんによるもの。あの彼女の独特な雰囲気で撮られた蜷川幸雄さんが見られるのも貴重です」
演劇そのものだけじゃなくて、作り手の裏話を知るっていうのも演劇を楽しむ一つの方法。残念ながらもう彼が演出した舞台を生で観ることはできないけど、この本を読んだ後に映像で楽しみたい。


映画と原作の小説をセットで楽しむみたいなことはよくしていたんだけど、舞台こそ戯曲とセットで挑戦すると面白いかも。原作とのギャップにがっかりなんていう映画あるあるも、戯曲ならばそのギャップこそが面白かったりするからね。もし舞台を観に行く予定がなくても、平子さんに聞けば自分にあった演劇の本をおすすめしてくれるし、この春は小説のかわりに戯曲に挑戦してみよう。

ちなみに平子さんの名前『平子北斗』は芸名ではなくて本名。生まれながらに俳優になる運命だったとしか思えないよ。

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写真・文 飯野僚子