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第1回 森岡書店 森岡 督行さん

profile:もりおか・よしゆき。1998年に、『一誠堂書店』に入社、8年間の勤めを経て2006年『森岡書店』をオープン。現在に至る。○東京都中央区日本橋茅場町2-17-13第2井上ビル305号森岡書店 ☎03-3249-3456 営業時間13:00~20:00 日休
 

近頃、東京では代官山の蔦屋書店のようにいろいろなサービスも楽しめる本屋さんや、ZINEだけを取り扱ってる本屋さんなど、それぞれテーマを持ち、新しい本の楽しみ方を提案する本屋さんができています。このブログでは、かけだしライターの私、宮本 賢がそんな本屋さん訪れて取材。本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)のおもしろさを教えてもらおうという企画です。インディペンデントでかっこいい本屋さんにいる「本のスペシャリスト」に会いに行ってきます。「Diggin’ Books」毎月更新!

 

昔から本は好きだったんですか?

「そうですね。22歳の頃、何したらいいかわからない時期があったんです。そのときに昔からよく行っていた神保町の『一誠堂書店』の求人が出ていて、ここだったら働きたいと思ったんです。本が好きだったし、写真集も好きだったから。なにより昭和初期の建物のレトロな雰囲気が気に入っていたんです」
 

大学を卒業してからすぐ本の世界に入ったんですね。

「はい。一誠堂で学術書を担当していて、定年まで働くつもりだったんですよ」
 

一書店員から古書店のオーナーに転身。大きな変化ですよね。なにがきっかけだったんですか?

「一番はこの建物ですね。私が借りる前は古道具屋さんがはいっていて、それを見に来たところすごくいい建物だなって思ったんです。天井の高さとか壁の質感とか、川沿いっていう立地とか。そしたら『この店を辞めて長野で有機農業します』って張り紙があったんです。そのときに『ここ、古本屋にしたらいいんじゃなか』って直感が生まれて、1週間でやることを決めてしまったという感じですね。古書店は少なくとも1万冊くらい本を揃えるのが定石だと思うんですが、ぼくは100冊くらいしか揃えなかったんです」
 

それはなにか理由があるんですか?

「神保町時代は本の量が多すぎて把握できなかったので、自分でやるときは把握できる量でやりたかったんです」
 

めずらしい本が多いようですよね。どのように選んでいるんですか?

「昔から集めていた、海外の写真集や美術書が多いですね。その中でも1930~1972年の対外宣伝紙(プロパガンダ)は10年くらいかけて集めているのでたくさんありますよ。ここまでこのジャンルを集めているのは他にはないんじゃないかな?店頭には出していませんが(笑)」
 

本だけが置いてあるという感じがしないところとか森岡書店は一般的な古書店少し違いますよね。

「お客さんに作家さんが多くて、その流れでギャラリーも始めたんです。そのうちこのスタイルが自分の性に合ってるなと思って、今ではこの形が定着してきました。」
 

お店を見回すと、物の置き方とかがおもしろいですよね?

「そうですね。ここのテーブルとか窓とかランプとかは全部“対”になっているんです。陰と陽とか、静と動とか、そういう二元の世界観を出したかったんです。本も平和の写真集の隣には戦争の写真集みたいに対のイメージで置きたかったんですけど今は実現できていないんですよね」
 

そのこだわりはなにか理由があるんですか?

「学生のときに、哲学書とか写真集とかを読みあさっていたんですけど、そのときに好きだった夏目漱石や細江英公などの作家のテーマに二元の世界観というものが多かったんです。それに影響を受けてですね」
 

一般的な古書店はどういうシステムなんですか?

「神保町時代には、築地みたいに古本の市場があります。最近はほとんど行っていないので偉そうなことは言えないのですが、そこの楽しみは、一山いくらって単位で売っていて、それこそレコードを掘るときみたいに中を覗くんです。宝があると信じて。レコードの世界に似てますよね。おもしろい世界だと思いますよ。パチプロみたいなところもあって」
 

どういう意味ですか?(笑)

「とりあえず行かないといけないし、行ったら買いたくなる。そして買わないと始まらないっていうところですね。本当に偉そうなことを言える立場ではないのですが‥」

 

それでは森岡さんと選んだ、他では見れない本3冊を紹介します!

1st DIG 『JAPAN PICTORIAL』/鉄道省国際観光局発行

「これは日本が昔作っていた対外宣伝紙です、要はプロパガンダですね。この本は戦前の鉄道省国際観光局という所が作っていて珍しいものなんですよ。1930年に創立された団体で、もともとは観光誘致、外貨獲得のための部門だったんですが、満州事変が勃発してからは性格が変わるんです。日本で満州事変、満州国建国、国際連盟脱退という事態が続いて、世界的に孤立するんです。そこで文化的には繋がっていきましょうという意思と、満州国が認められるために日本の近代化を世界に伝える、という意味で作られた対外宣伝紙です。このジャンルはおもしろいです。デザインは原 弘。写真は木村 伊兵衛や、小石 清とか渡辺 義雄というメンバーですごい豪華。ただ日本を紹介してるだけなんですけどすごいおもしろい」

 

2nd DIG 『月喰』/渞 忠之

これを選んだ理由はなんでしょう?
「渞さんは今回の展覧会のために3年間月を撮ってるんです。写真家が写真家たる所以って1つの被写体に執着もって何年も追いかけてるってことじゃないかなって思っているんです。そういう意味では渞さんの写真を推薦したいなって。3年って結構な時間だと思うんですよ」

 

3rd DIG 『Japan… a chapter of image』/W.Eugine Smith

「次はユージン・スミスの作品なんですけど、この人は経歴がすごいと思うんですよ」
どういうところですか?
「もともと米軍の報道カメラマンで、エドーワード・スタイケンと一緒に硫黄島とかサイパンとかの激戦区を撮って沖縄に上陸してるんですが、そのとき日本軍の攻撃で負傷するんです。戦後は日本の公害問題の水俣の悲惨な状況を奥さんと世界に伝えていくっていう仕事を始める。これはその前に彼が写真を撮って日立が出した日本の文化案内で、写真がすごくいいんです」

 

『Japan… a chapter of image 』日立のPRだけでなく日本の風景も撮り続けていたユージン・スミス。

今回は、主に写真集を紹介して頂いたがここには、他にもいろいろな本がある。ここで本を眺めていると自分は「本」についてほんの少しのことしか知らないことに気がつく。とにかく、世の中にはまだ知らない本が山のようにあるのだ。自分も早く無数にある本棚からお宝を探し当てられるようになりたい!

取材・文・写真/宮本 賢