マガジンワールド

第17回 ACBD 内尾由生弥さん / 内尾充希さん

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profile:うちお・ゆきや(写真右) / うちお・みつき(写真左)。2013年11月にアメコミや海外コミックスの日本語翻訳専門漫画喫茶『ACBD』をオープン。行政書士を本業とする由生弥さんが店主を務め、妻である充希さんと2人で店を営む。
◯東京都杉並区高円寺南4-9-8グランドステータスクリハラ3階 ☎03-5913-8104 13:00〜21:00 毎週月曜日、第2・第4火曜日定休(祝祭日の場合営業)料金:1時間600円、2時間1,000円(初回割引をはじめ割引あり)

かの寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」と若者に呼びかけました。
たしかに実際に外に出て経験することは刺激的。けど、町に出てみると本屋がたくさんあって、結局また本を読んじゃうよね? それくらい今の東京にはわくわくする本屋さんが溢れているんです。町の本屋は店主のこだわりがつまった、まさに一つの世界。お店に入れば、その主人独自の視点で集められた本が並んでいて、自分の知らない世界に連れていってもらえる!

このブログは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今こそ書を探しに町に出よう!

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子どもの頃、誰もが一度は憧れたアメコミヒーロー。映画を見て、こっそりヒーローの得意技を練習した人も多いのでは? そんなシティボーイにとって、今年は『キック・アス』や『アメイジング・スパイダーマン』、さらには『キャプテン・アメリカ』シリーズの新作をはじめ、多くのアメコミ実写映画が公開される嬉しい1年。この機会にもっとアメコミの世界にどっぷり浸かってみたい!

というわけで今回は、高円寺にある漫画喫茶『ACBD』にお邪魔してきました。こちらはアメリカン・コミックスや、フランス語で書かれた漫画“バンドデシネ”などの海外コミックスを専門に扱う、日本では唯一の漫画喫茶。ドアに張り付いたスパイダーマンが出迎えてくれます。

ご夫婦が2人で営むほのぼのとした雰囲気のお店で、店主である由生弥さんにアメコミの魅力について教えていただきました。

ちなみにお店の名前は『American Comics』『Bande Dessinée』の頭文字から。『ABCD』ではないのでお間違いなく!

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―アメコミ専門書店は見かけたことがありますが、アメコミが中心の漫画喫茶ってすごく珍しいですよね。
「アメコミは値段が高く、興味はあるのに読めないという人が多いと思うんです。外国の漫画は図書館に収蔵されないし、漫画喫茶にも置かれてない。さらには書店に売っていてもビニールで覆われて中身が見えないんです。本当に面白いものなのに買うには少し高すぎるんですよね。気軽にアメコミを読める場所がないなら、いっそのこと自分で作ってしまえ! ということで店をはじめました」

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―お店のラインナップを見ると、日本語に翻訳されたものが多いなと思ったんですが、何か理由があるんですか?
「ここは、興味はあるけど踏み出せないアメコミ初心者の人に向けた店なんです。やはり翻訳されている作品は原書にくらべて少ないので、最終的には英語の原書を読んでほしいと思っています。でも海外の漫画は日本のものとページをめくる方向が違うし、さらには言語も違うので読みづらい。だからまずは翻訳されたものを読んで、アメコミの入り口に立ってもらいたいと思っています。オープンをする際に、日本の出版社に在庫がある翻訳版のアメコミほぼすべて揃えました。置いてある作品はアメコミファンならば必ず読むベーシックな作品が中心です。絶版のものをお客さんが期間限定で貸してくれることもあるんですよ」 
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―そもそも内尾さんがアメコミに興味を持ったきっかけはなんですか?
「いままで、アメコミの実写映画は好きでよく見ていましたが、なかなか手に取る機会がなく……。アメコミを自分で買って本格的に読んだのは、3年ほど前、『アメイジング・スパイダーマン』が公開された頃です。一度読んでみると、イラストが本当に緻密で、画のかっこよさに惹かれて、どんどんはまっていきました。アメコミは日本の漫画よりも一冊あたりにかける制作の時間に余裕があるので、本当によく作り込まれているんです」

―たしかに、アメコミと聞くとカラフルでダイナミックなイラストがすぐに浮かびます!でもなんでそんなに制作に余裕があるんですか?
「日本の漫画に比べて刊行のペースが遅く、制作時間が長くとれるんです。さらにアメリカでは作家ではなく出版社にキャラクターの版権があるという面白い特徴があります。そのため、原作と作画が分担されていて、一つのヒーローの作品だけでも、色々な人によって作られています。鉛筆等で下書きする原画担当者と実際にペン入れをする担当者が別の場合もあるんです。シナリオと作画、それぞれがその分野のプロによって作られているためすべてを丁寧に作り込むことができるんです」
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―完全に分業ってすごい面白いですね。
「そうですね。僕が最初に読んだのは『CIVIL WAR』と『ダークナイト リターンズ』という作品なんですが、『CIVIL WAR』は、これでもか! というくらい、多くのヒーローが登場します。他にも垣根を越えてキャラクター同士が自由に競演する作品がたくさんあるんです。逆に『ダークナイト リターンズ』は、バットマン一人に焦点をあてた、少し暗い雰囲気のシリアスな作品。ライターによってまったく作品の雰囲気が変わるんです。どっちも出版社にキャラクターの版権があるからこそ生まれる面白さですよね」

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―私もアメコミを読んでみたくなったんですが、ここに注目して作品を選ぶと初心者でも楽しめる! というコツはありますか?
「まずはお気に入りのヒーローを見つけることです。あとは好きなシナリオライターとイラストレーターを見つけて、そこからその人が関わった作品を読むのも面白いと思います。同じ作品であってもライターやアーティストの組み合わせによって作品の雰囲気がまったく変わります。さらにはストーリーや画だけでなく、ヒーローの人格自体も作る人によって少し変わっていたり(笑)。そういう自由度の高いところもアメコミの面白いところですね」
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―性格まで変わってしまうんですか!(笑) ヒーローだけじゃなく、ライターやアーティストにもアメコミ界のスター的な存在はいるんですか?
「もちろんいます! たとえば僕が1番最初に読んだ『ダークナイト リターンズ』の原作者フランク・ミラーもスターの一人です。アメコミを現代的な視点で知的に、大人向けに書く人です。アーティストでは、ジム・リーが有名ですね。彼の画は本当に繊細で、ダイナミックなんです。フランク・ミラーもジム・リーも僕の好きなストーリー、画を書く人です。この2人がタッグを組んで作った『バットマン&ロビン』という最強の作品もあるんです」 
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ちなみに奥様の充希さんが好きなアーティストはアレックス・ロス。水彩画みたいなタッチで、スーパーマンのダイナミックスさがさらに伝わってくる! お二人のように自分の好きなキャラクターだけじゃなく、イラストレーターやライターにも注目すればアメコミの世界はどんどん広がる。 

というわけで今月はアメコミが必ず好きになる3冊をディグってきました!

1st DIG 『CIVIL WAR』OLYMPUS DIGITAL CAMERA

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「数多くいるヒーローたちが、ある出来事をきっかけに二手に分かれて内戦(シビルウォー)に突入してしまう、というストーリーです。アイアンマン、スパイダーマン、キャプテン・アメリカを始め、出演するヒーローは総勢112名にも及びます。マーベルが作った作品間の共有世界に登場するヒーローに加え、悪者も総出演。例えるならば、あの『ファミコンジャンプ』が『少年ジャンプ』の誌上で繰り広げられるという感じでしょうか。『シビル・ウォー』は、現在日本語訳されているマーベルの他の作品と密接に繋がっているので、これを起点にストーリーをさかのぼったり、あるいは追いかけると分かりやすいですよ」
アメコミの面白さがつまった、初心者におすすめの一冊。アイアンマンとキャプテン・アメリカがそれぞれのリーダーになって戦う物語。どっちのチームを応援しよう。悩む!
 
 

2nd DIG 『BATMAN THE KILLING JOKE』OLYMPUS DIGITAL CAMERA

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「バットマンとジョーカーのねじれた関係を、ジョーカーはなぜジョーカーになったのかという、キャラクターのオリジン(誕生譚)を絡めて描いた作品。ジョーカーのオリジンはいくつも存在しますが、本作がベストとの呼び声も高いです。ジョーカーはこう考えています。『正気であり続けることなんて苦痛でしかない。お前らを全員狂わせて楽にしてやる』。次々と凶行に及ぶジョーカーをバットマンは止められるのか。50ページに満たない作品ですが、ジョーカーの狂気をうまく表現できています」
フランク・ミラーと並んで巨匠と言われるライター、アラン・ムーア。由生弥さんいわく、彼の書くストーリーはとても知的で、文学的な要素があるんだとか。決して明るい雰囲気の作品ではないけど、アメコミの奥深さが味わえる。 
 
 

3rd DIG『KICKASS』OLYMPUS DIGITAL CAMERA

「主人公のデイブ・リゼウスキは、アメコミのスーパーヒーローに憧れるオタク少年。彼は世の中の誰もヒーローになろうとしないことに疑問を持ち、自分で本物のヒーローになろうと思い立つ。ネットで手に入れたショボいスーツを着てヒーロー活動をするものの、何のスーパーパワーも持っていないデイブは途端にチンピラにのされてしまう…。お勧めポイントは、最近刊行が始まった作品なので、複雑な設定がない点です。アメコミの中には、何十年という歴史を持つ作品やキャラクターが多く存在します。でも、『キック・アス』は刊行開始が2008年なので、込み入ったストーリーの歴史も、複雑な設定もありません。ですから、予備知識がなくても楽しめます。ストーリーの要点は、『何の特殊能力もない、体力もない人間はヒーローになることができるのか?』。ここを押さえておけば大丈夫です。果たしてデイブはヒーローになれるんでしょうか?」
なじみのある映画の原作なら気軽に読めそう! さらにこのマーク・ミラーは『シビルウォー』も手がけているライター。そういうつながりを知るとなんだかわくわくしない?
 
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アメコミの面白さはヒーローのキャラクターやそのかっこよさだけじゃない。漫画ってちょっと子どもっぽいな……と思っていたけど、物語りや画が作り込まれたアメコミの面白さは、むしろ大人になってからのほうがわかるのかも。さらに、自分が好きなライターやイラストレーターを見つけて、その2人が一緒に作った、自分にとって最高の一冊を見つけるのも楽しそう。アメコミの世界はもっと深かった! 

アメコミに興味がある人はもちろん、ヒーローものの漫画よりも断然小説派! という人にもアメコミをぜひ読んでほしい。ちょっと高くて買うには勇気のいるアメコミだけど、『ACBD』に行けば気軽に読めるからね! 

『ACBD』のHPはこちら!
由生弥さんによるアメコミ用語集はわかりやすくて面白いよ。

 
取材/文/写真 飯野僚子