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第31回 星野泰平(25)『ARMS CLOTHING STORE』『SUPER8SHOES』スタッフ

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何となく“今っぽい”だけじゃ、スタイルを持っているとは言えない。世の中の大きな流れにうまく乗っかろうとするのではなく、自分の価値観を信じて行動し続けるのが真のシティボーイ。このブログでは、「彼らが何を考え、何に迷い、何を面白いと思っているのか」を聞きながら、そのバックボーンを探っていきます。

今月のシティボーイは、将来自分で古着屋さんを開くことを視野に入れながら、祐天寺のヴィンテージショップ『ARMS CLOTHING STORE』と、千駄ヶ谷のヴィンテージシューズ専門店『SUPER8SHOES』で働く星野泰平君(25)。実は彼、つい最近まで某セレクトショップで働いていたんだけど、中学生の頃から培ってきた古着への情熱を抑えきれず、新卒で入ってちょうど2年が経った頃に退社。彼自身、ずっとタイミングを見計らってきたというが、行きつけの古着屋さんのオーナーや洋服好きの友人から「星野君なら古着をやったほうがいいよ」と言われたことも大きな後押しになった。そこまで言わしめる彼の古着愛やいかに。本人いわく「古着が詰まったダンボールが部屋に何個も置いてある」。それはすごい! 早速、実家がある川崎まで足を運んだ。

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部屋に入ると、四方を埋め尽くす大量の古着、古着、古着! 約4畳半の部屋に、2人が立つスペースがギリギリ空いているくらい。

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特に〈L.L.Bean〉に関しては、ハットから洋服、シューズまで、「ここは本社のアーカイブルームか!」と突っ込みたくなる充実度。しかもカタログまで揃っている。25歳で〈L.L.Bean〉のマニアなんて聞いたことがない。

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「僕の親父が〈L.L.Bean〉の大ファンで、昔から家にカタログが転がっているような環境で育ったんです。でも、小学生の頃は、まわりがユニクロのフリースを着ているなか、自分だけ〈L.L.Bean〉のフリースを着せられることがとにかく嫌で(笑)。中学に入ると、徐々に自分でも古着を買うように。普段は地元の古着屋でレギュラーを買うことが多かったんですが、たまに原宿や渋谷に繰り出しては、『何でこんな高いんだ……』とビビりながらヴィンテージを眺めていましたね。ちなみに、当時世間ではスキニーが流行っていたんですが、僕はずっと〈リーバイス〉の501で通していました」

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そんな彼のスタイルがこちら。遠目から見ると完全にアメリカのパパ。だが、配色やサイジングは今のトレンドと絶妙にシンクロしたりしているから、一筋縄ではいかない。着ているのは〈L.L.Bean〉のコートに、(写真では見えないけれど)〈チャンピオン〉のスウェット、〈リーバイス〉シルバータブのデニム。キャップは〈OAK〉、シューズも〈L.L.Bean〉だ。

「特に影響を受けたのは、『ミスター・モート』というスナップサイトを主宰しているモルデカイ・ルービンシュタイン。自分は、50年代、60年代のヴィンテージも好きだけど、80年代や90年代のアイテムも同じように好きだから、『サルトリアリスト』で初めて見た彼の自由な着方には衝撃を受けました。もう何でもアリだなって。彼のおかげで、サイズが大きいとか、色が派手とか、そういうことを含めて古着を楽しめるようになりましたね」。

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彼がいつもかけている眼鏡は、彼にとってはモルデカイと並ぶファッションアイコンのウディ・アレンも愛用している〈タートオプティカル〉のヴィンテージ。写真で着用しているのは「リズ」というモデル。ちなみに、クリアフレームの眼鏡が映える潔い髪型は、「中学では野球部、高校ではサッカー部に入っていたから、髪を伸ばす習慣がなく、10年以上変わっていない」のだそう。

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古着アディクトの彼の隠れた特技がアコーディオン。大学時代はバンドを組んでいて、今でもミュージシャンの友人の録音に参加したりしている。大学の頃からすでに自分で古着屋を開くことは考えていたのだろうか?

「いえ、大学に入った時は教師になろうと思っていました。ただ、実際に教員実習の段階に入って、『これじゃないな』という思いが強くなってしまって。それで1年間留年して、改めて就職活動を始めることに。その時から自分の店を出すという目標はぼんやりと持っていましたが、まだ具体的に何も考えていなかった。とりあえず洋服の現場を知ろうと思って、某セレクトショップに入社しました。ここで接客のイロハを学んだことは、将来自分のお店に立つ時にも必ず役に立つと思います」

会社を辞めた後すぐに、彼が大学時代から付き合いのあった幡ヶ谷の古着屋さん『Paletown』オーナーの谷川浩志さんから、『SUPER8SHOES』の仕事を紹介されたという。話の続きは、川崎から千駄ヶ谷のお店に移動して聞くことに。

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千駄ヶ谷の住宅街にひっそりと佇む『SUPER8SHOES』には、壁いっぱいに貫禄のあるヴィンテージシューズが並んでいる。彼の仕事は、アメリカから買い付けてきたシューズを磨いて、お店に出せる状態にすること。スタッフいわく「とても飲み込みが早い」そうで、エプロン姿も堂に入っていた。

「革靴は最初に水でジャブジャブ洗っちゃうということをここで初めて知りました。質の高いヴィンテージシューズを大量に見るというだけでも勉強になります。個人的に好きなのは〈フローシャイム〉というアメリカのブランド。「インペリアル」という高級ラインがあって、ウディ・アレンの映画「スコルピオンの恋まじない」のなかで、ウディ本人が『インペリアルは最高の靴だ』と言う場面が印象に残っていますね」

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また、彼が『SUPER8SHOES』と同時期に働き始めたのが、祐天寺の古着屋さん『Arms Clothing Store』。ある日、彼が会社を辞めることをオーナーに伝えたところ、「じゃあ、うちに入る?」と誘ってくれたのだそう。

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「このアイテム、他の古着屋さんでけっこう出てるかな?」「いや、まだやってないと思います」というような2人の会話を聞くと、暇さえあれば古着屋さんをまわっている星野君をオーナーが信頼している様子が伝わってくる。都内の古着屋はほとんど把握しているという彼だが、そのきっかけになったお店はどこなのだろう?

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「本格的に通い始めた最初のお店は中目黒の『evergreen』。古着の知識のほとんどは店主の中島さんから学びました。もちろん、ネットで調べればあらかたのことはわかるけれど、実際にお店に並んでいる洋服を見ながら、『このアイテムはたぶんこういう出自で〜』とかっていう話を聞くことが1番タメになったような気がする。中島さんは今でも僕のことを気にかけてくれていて、退職を報告した時に『古着の世界に入るなら、とにかく経験を積むことが大事だよ』と言われたことが、ずっと心に残っています」

彼の一途な古着愛をまわりも認めているということ。最後にこれは聞いておきたい。彼にとって理想のお店とは?

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「だいぶ先の話になりますが、自分がやりたいのは、単に良質な古着を集めたお店を出すことではなく、色んな人が集まってくる楽しい“場所”を作ること。実際に、僕も『mAnchies』(中目黒の古着屋さん)で『Paletown』の谷川さんや、最近ずっと一緒にいる鈴木雄太(当ブログの第17回に登場)と出合ったし、同じ体験を自分のお客さんにも提供したい。それともうひとつ、古着の解釈の幅を広げたいですね。王道のヴィンテージ以外にも、“良い”と思えるものを増やしていくっていうか。とりあえず今年中にアメリカに行って、『良い古着を探すのがどれだけ大変か』を実感してみたいです(笑)」。

聞けば、ヴィンテージと言えるような70年代までのアイテムはアメリカでも見つからなくなってきたという。だからこそ、彼は “王道”以外のアイテムに新しい価値を見出そうとしているのだ。ちなみに、直近では不定期でポップアップを開催したり、古着のイベントを手伝ったりする予定なんだって。

ARMS CLOTHING STORE:ブログ
SUPER8SHOES:ホームページ
evergreen:ブログ
彼が手伝っている古着のイベント『RAW TOKYO』:ホームページ

文章と写真 長畑宏明