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第32回 タナカホンヤ 田中宏治さん

profile: たなか・こうじ|日本、海外を問わず旅をした後に2010年に那覇にて1ヶ月限定の古書店を開き、その後2012年に『タナカホンヤ』をオープン。○東京都台東区池之端2-7-7 12:00〜20:00

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!  
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(=Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます! 

根津駅から徒歩2分。扉がなく、真っ白でオープンな雰囲気の店を発見した! ここはギャラリーとしても営業する古書店『タナカホンヤ』。ショップカードにあるトレードマークは本好きな二宮金次郎? いや、バックパッカー? そのモデルになったのは店主・田中宏治さん。本を片手に旅をしていた彼がこの店ははじめて4年、今では根津の地元民から遠方の旅好きの人までもが集まる場所に。

扱う本は約400冊と決して多い数ではないけど、旅をメインにデザイン、エッセイなど、どれも田中さんの旅行への興味から選ばれたものだから一つ一つが濃い。例えば、エッセイをとっても、ある都市での暮らしで感じたことがテーマだったりして、すべてが旅に繋がっている内容。

もちろん、ギャラリースペースとしての営業も盛んで、これまでにケニアの動物を紹介する展示やインドの古典音楽のレコードジャケット展などを開催。本だけでなく、旅好きの出展者とも触れ合える場所でもあるんです。

入り口付近には普段オンラインでのみ営業している『カワバタ書店』のコーナーも。静岡の駅弁情報の本や釣りなど、本号『旅と弁当。』を作ったポパイとしては見逃せないラインナップ! ちなみに期間は決まってないんだとか。

—田中さん、本当に旅がお好きなんですね。本棚を見ていてひしひしと伝わってきます。

「そうですね(笑)。この店を始めたきっかけも旅でした。2012年に書店勤務の経験もなく勢いで始めたこの店ですが、実はその2年前に1ヶ月だけ沖縄で本屋を開いたことがあったんです。那覇の有名な観光地である牧志公設市場にはかつて『とくふく堂』という古本屋さんがありました。沖縄での旅行中にそこで一ヶ月間まるまる店舗を貸し出す“貸古本屋”という企画があるのを知って。市場で古本屋さんなんてなかなかできないことだし、東京から戻って1ヶ月後には自分の本、約200冊を郵送してまた沖縄に向かっていましたね。市場の活気のある雰囲気の中で本を売る楽しさが忘れられず、その2年後の引っ越しの際に、趣味で集めていた本を売る場所を作ることにしました」
知らない場所で、さらには未経験で本屋を開く行動力はすごい。非日常の旅は、普段の自分とは違う力を見出せるものなのかもしれない。

沖縄への旅行をきっかけに店を持つことになった田中さん。彼にとって沖縄は思い入れのある場所のようで、店には沖縄に関する本もたくさん。

「僕は東京出身で田舎というものがないから、日帰りでは難しいような日本の自然があるところに惹かれるんです。それに沖縄は地域に根付いた本を作る出版社もあって、自分にとって興味深い場所。ただ、やっぱりそこで腰を落ち着けて住むとなると、そこできちんと暮らせるのか、馴染めるのかが不安で難しい。だから、沖縄もあくまで旅の目的地として好きなのかもしれません」

滞在日数が決まっていると、その場所を余計深く知ろうと思えるし、当たり前だけど、その限られた時間というのが旅の魅力。その時間を最大限活かすために、旅には本が不可欠というわけ。次に田中さんはこんな本を見せてくれました。

「これは詩人である故・山尾三省さんの『森羅万象の中へ』という1冊です。癌を宣告されて屋久島の自然の中で暮らすことにした彼の、そこでの生活で感じたことを記録したもの。彼が森を歩き、大樹に手を触れながら考える、人生についてのエッセイは重みがあるのに心にすっと入ってきて、自分の東京での暮らしと対比して考えることができるんです。もしかしたら、普通のガイドブックを見るよりも、そこで暮らす人の思いを知ったほうが旅がより印象深いものになるかもしれませんね」

そんな田中さんにとって印象深い旅先は?

「強烈にまた行きたいなと思うのはインドです。タクシーに乗るのに値段交渉で10分以上運転手と喧嘩したり、いつもの自分とは思えないくらいそこでの生活はエネルギーを使って……。滞在中はむかつくことがめちゃくちゃあるのに、なぜだか日本に帰るとインドでの生活が最高に楽しかったように思えてくるんですよね。やっぱりインドの人は日本人と違うところがたくさんあるし、仲良くなりたいと思って東京に帰ってからインド料理屋で働き始めました。実は今でも店を手伝っているんです(笑)」
田中さん、インド料理屋でも働いているんですか!? 行動力も好奇心の強さも、旅の力だけじゃない気がしてきた……。

それでは今月もディグって行きます。今回は旅に出たくなる3冊。

1st DIG「野牛を追うスー族インディアン」

「ブリタニカ絵本という教材シリーズの1冊です。教育映画「昔のインディアンの家族」から抜粋した写真と一緒にインディアンの生活を紹介したもの。1970年ころのものなのですが、たまたま店にきた根津の地元の方が懐かしい! と言っていたので当時は学校の授業などでもよく使われていたのかもしれません」
なんともいえないノンフィクション感溢れる写真が気になって仕方ない。

2nd DIG 「染織産地の歩き方 近畿」Secori Gallery

「月島にあるものづくりのギャラリースペース『セコリ荘』が制作したブックです。普段は日本の繊維業界を支える活動をしている彼らが、実際に近畿地方にある工場を回って紹介しています」
本誌3月号「仕事とは?」でオーナーの宮浦晋也さんが登場してくれた『セコリ荘』の1冊。古書ではなく、新刊だから今現在のその場所を知れる。

3rd DIG 「旅の手帖」宮脇 壇

「建築家だった宮脇さんは旅が好きな方で、その職業柄、滞在したホテルや見た景色をメモしていたんです。それを彼の没後に遺族が見つけて、本にまとめたのがこの1冊です」
繊細なタッチで緻密に描かれた絵が美しすぎる。パーソナルな日記は旅のわくわくをさらにかき立ててくれる気がするし、写真ではなくイラストだからさらにその場所への想像も膨らむ!

タナカホンヤは旅に出るきっかけになる本と出会える場所。
まさにバックパッカー界の二宮金次郎な田中さんとも話せば、もっと旅に出たくなる!

photo,text: 飯野僚子