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第39回 一日 樽本樹廣さん

profile: たるもと・みきひろ|新刊書店での勤務を経て2006年より古書店『百年』の代表を務める。2017年8月に『一日』をオープン。◯東京都武蔵野市吉祥寺本町2-1-3石上ビル1F 12:00〜20:30 火休 ☎︎0422‐27‐5990

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます!

本誌9月号の『君の街から、本屋が消えたら大変だ!』で又吉直樹さんが好きだと語ってくれた吉祥寺の古書店『百年』。そこから徒歩1分の場所に系列店となる『一日』が8月にオープン! 店主の樽本樹廣さんに話を聞きました。

店があるのは吉祥寺駅北口を出て、中央線の線路沿いを三鷹方面に進んだところ。一見何かの事務所的なこぢんまりした雰囲気で本屋っぽくないけど、入ってみると予想外に広いスペース。

「ここはもともと整骨院だった物件で、入ってすぐにはギャラリーとして使える展示スペースと、定期的に入れ替わる特集の本棚を置いています。今は山に関連する内容や単純に買い取りをしていて、これは! と思ったおすすめの本がメインです」
そのほかに絵本やZINE、カルチャー系のテーマなどもラインナップ。そして現在展示はお休み中だけど、これから写真展やリーディングイベントを開催予定だとか。 

さらに進むとガレージセールまで! 文庫本や海外のファッション雑誌が105円〜で購入可能。
本がぎっしり並んだ『百年』とはまた違った見やすさがある気がする。
「『百年』もこの『一日』も作者と読者をつなげるコミュニケーションの場所でありたいという考えは一緒ですが、ここではもっと自由に場所を広く使って、『百年』では見せたいけど見せられない本を整理して置いて冊数を絞ったり、展示ももっと色んな人に参加してもらえるようにしたいと思っています。本はそれを受け継ぐのに何百年、何世紀のように大きな単位で語られがちですが、もっと身近に、本を手に取った方やイベントに参加した方の一日にコミットするということを大切に考えています」

『百年』と同様に『一日』でも力を入れているのがお客さんからの本の買い取り。ここでは前の持ち主がどんな思いで本を持っていたのかを知るのも楽しみの一つ。

「これは僕と同世代の方が売ってくれたマーク・ボスウィックのプリントです。その方は高校生のときにアルバイト代を貯めて毎月1枚ずつ買って集めていたそう。そんな高校生がいるんだっていう驚きもあるし、そういった大切なものを譲るのにこの店を選んでくれたのも嬉しいですね」

ん? 本じゃない! って突っ込みたくなったかもしれないが、ここでは資料として価値のあるものは古書として販売。そういうわけでもう一つ、巻物を見せてくれました。

「『金色夜叉』の作家である尾崎紅葉の俳句の直筆の巻物です。3代、4代前からの蔵書をあるお客さんが譲ってくださったんですが、何より大きな戦争を経験した中でも保存の状態が素晴らしくて驚きました。その方はほかにも歴史的に価値のある資料を持っていて、おすすめのコーナーにまとめて置いています」
以前の持ち主にここまで注目することって案外なかったかも!

それでは今月もディグっていきます。
1st DIG『中国聴戯隈取一覧』
「歌舞伎の化粧の隈取りがありますが、これは中国の京劇などの隈取りの人形です。江戸時代くらいのものでしょうか。タイトルはもともとの持ち主が勝手につけた整理用のラベルのようです(笑)」
まずは普通の本ではない資料から一つ。パッケージまで当時の持ち主のキャラクターが出ていておもしろい! ちょっと不気味な人形だけど、紙ではない資料って昔では画期的かも。

2nd DIG『村山知義の宇宙』
続いては樽本さんの買い取りの思い出から、作家、劇作家、ダンサーと幅広く活躍していた村山知義さんの作品のアーカイヴ集。
「実は彼の翻訳した『ロビン・フッド』を以前持っていたのですが、5000円という激安の値段で売ってしまったことがあって、この本を見るたびにそのことを思い出してちょっと後悔してます(笑)」

3rd DIG『ヒステリックグラマーアーティストブック』
本誌ファッション特集にちなんで? ファッション関連から1冊。
「ヒステリックグラマーが1987年に出したビジュアルブックです。出版活動に力を入れているブランドですが、その始まりがこの1冊からでした。日本国内でシーズンのコンセプトを伝える、カタログ的ではないビジュアルブックを作るブランドはまだなかったので、かなりエポックメイキングな1冊です」

「オープンしたばかりの『一日』はまだこれからどんどん変わっていきそう」と樽本さん。本棚も定期的に入れ替えていくそうで、また定期的に通いたい本屋が東京の街に増えた! 近くの『百年』と合わせて行ってみよう。