マガジンワールド

第40回 齊藤路蘭(22)学生

夢中なことがあったり、叶えたい目標があったり、誰にも真似できない自分だけの“何か”を持ってる人ってかっこいい。
シティボーイってどんな人のことを言うの!? という問いの正解は決して一つではないけれど、彼らが共通して持っているのは、そういう自分の興味に対する強い想いなのではないでしょうか。  
このブログでは、毎回1人のシティボーイに密着取材。彼らのホームタウンを巡りながら、シティボーイの実態を調査していきます。

今月のシティボーイは早稲田大学4年生の齊藤路蘭さん。大学で映画について学びながら自身で作品を作っている22歳。

映像や写真、zineなど、いろんな媒体を通して自分の思っていることを表現するクリエイティブな学生は珍しくないけど、そんな中でも齊藤さんのことが気になってしょうがなかったのは、監督、主演、脚本、ナレーション、カメラ、編集がすべて彼一人っていう変わったスタイルだから。

なぜかナレーションは英語で日本語字幕付き。題材はいつも「自分」。明るい内容ってわけでもない。一歩間違えると友達になれなさそうな人にも見えかねないのに、齊藤さんの作品はむしろお茶目で人間味が出ていて、きっといい人なんだろうなと思った。というわけで、彼のホームタウン、田園都市線は藤が丘駅の街にお邪魔してきました!

まずは彼が子供のころから通っている中華料理「味香亭」へ。ここでは映画を作り始めたきっかけを。
「中学に入ったときくらいから、自分が考えていることを文章や写真、映像で表現したいと思って、細々と誰に見せるわけでもなく記録をしていたんです。そのうちに映画に興味を持って、大学入学と同時に本格的に勉強と作品作りを始めました。これまで4本撮ったんですが、どれも自分一人で作った作品。大きなドラマも起きない、そのときの自分自身をただ写したものです。もともと本や映画はどちらかというと暗いものが好きで、それがかなり影響しているかもしれません。暗いといってもお涙頂戴系のドラマチックなものではなくて、現実的なものが好き。1番好きな映画はレオスカラックスの『ボーイ・ミーツ・ガール』です」

淡々と話す齊藤さんに『ボーイ・ミーツ・ガール』の好きなシーンを聞くと「主人公の男が、うめき声のようなものをあげながら、ひたすら夜の街を徘徊するシーンです」と即答。かと思えば、「猫舌かつ知覚過敏なんです」といってゆっくりラーメンとチャーハンを食べる姿からは、独特なオーラが漂って、ますますどんな人なのか気になる……ってことで、作業場所でもあるご自宅へ。

もともとの実家は静岡だという齊藤さん。現在は東京でコピーライターとして働くお父さんと2人暮らし。まずは、いつもお父さんと一緒に映画を観ているというリビングへ。
 
陳列されたレコードプレーヤたちにレコードとCDの山!
 
「いつもソファーに2人並んで映画を観ています。父と僕は親子というよりも友達みたいな感じなんです。映画や音楽、本を好きになったのも完全に両親の影響だと思います! ちなみに今日履いているチノパンはブランドがバーニーズニューヨーク、父のタンスから拝借したものです」
お父さんのことを素直に尊敬できるのはなんだかかっこいい!

続いて齊藤さんのお部屋へ。

ここにも音源がズラリ。彼の作風にも通ずる、モリッシーだとかフランク・オーシャンのような年代を超えたちょっとロマンチックなアーティストが多め。

先日公開されたジム・ジャームッシュの最新作『パターソン』にも登場するウィリアムズの詩集も発見!

「先日映画館で『パターソン』を観て思わずポチってしまいました(笑)。あの映画、最高でした。この映画に出会う前から詩は好きなんです。映画にナレーションをつけて字幕を入れるのもそれが理由です。ただ、友達には『お前の映画の言葉、蛇足じゃない?』って突っ込まれます(笑)。なのであくまで抽象的に、ナルシスト的にならないように気をつけています」
『パターソン』は発表するあてもなく詩を書いているバスドライバーのなんでもない1週間を描いた物語。穏やかな空気が流れる街は、齊藤さんの住む藤が丘にもどこか似ているし、飄々としているけどチャーミングな主人公は齊藤さんに似ているかも。

次に彼が完全に一人で映画を撮るうえで影響を受けた監督について教えてくれました。
 

「ジョナス・メカスはリトアニア出身で現在はNYで活動している映画監督。彼は毎日映画を撮り続けていて、どれも被写体が彼自身の日常の、日記風なドキュメンタリーなんです。彼の作品には3時間以上あるのもあります(笑)。彼の作品を見たときは衝撃を受けました。94歳でも現役の彼ですが、ご存命のうちにNYに会いに行きたいです。今彼について卒業論文を書いているので、行くとしたら提出した後すぐですかね」

実は一人で映画を撮り始めたきっかけはもう一つあるとか。
「大学に入って映画について勉強しはじめたときに、大学内で映画のコンペがあることを知ったんです。でもそのときすでに締め切りの直前で……思い切ってカメラ1台だけで映画作りに悩む自分自身を撮ってしまおうと思いついたんです(笑)。でも、いい加減なようでいて、自分が考えていることをただそのまま写す、マイナスな感情はマイナスのまま認めるっていう行為は、むしろ自分にとってとても有意義なことだなって撮りながら気づきました。それ以来、特別な機材も用意せずに、シンプルな機材と編集で作品を作っています。一人だから作品ができたときの嬉しさや作る過程の悩みは人と共有できないし、技術的にも限界があります。それでも作品をつくりながら自分と向き合うのはすごく意味のあることで、今の自分には心地いいです。ただ、恥ずかしくてこれまでに作った作品はあと20年くらい経たないと自分では見られなさそう(笑)」

最後に彼が好きな、もえぎ野公園へ。
「大学卒業後は大学院に進んで引き続き映画について勉強する予定ですが、その後のことは正直まだ決めていないんです。自然に身を任せて就職をして、仕事のかたわらに制作活動を続けようかなとも考えています。自分で道を切り開いていくことももちろん大事だけど、なんでもないことも幸せといいますか。穏やかに丁寧に暮らしたいんです」

いろんなことに挑戦していく人生もいいけど、齊藤さんの話を聞くと淡々と今ある生活を続けていくのも素敵な一つの人生かもなんて思ったり。現在も新しい作品を制作中とのこと。楽しみにしています!

写真・文 飯野僚子