マガジンワールド

第41回 BIEN (24) アーティスト

夢中なことがあったり、叶えたい目標があったり、誰にも真似できない自分だけの“何か”を持ってる人ってかっこいい。
シティボーイってどんな人のことを言うの!? という問いの正解は決して一つではないけれど、彼らが共通して持っているのは、そういう自分の興味に対する強い想いなのではないでしょうか。  
このブログでは、毎回1人のシティボーイに密着取材。彼らのホームタウンを巡りながら、シティボーイの実態を調査していきます。

今月のシティボーイはアーティストのビエンくん。以前、池尻大橋のカフェ『WORKS』でダイナミックなラインのペイントを見て気になっていたところ、最近オープンした丸の内の『ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ』にも作品が! どこの海外のアーティストだろうと思って調べてみれば、多摩美術大学を卒業したばかりの24歳の男の子でした。というわけで、今回は彼のアトリエ兼自宅がある用賀の街にお邪魔してきました。

ビエンくんが用賀に引っ越してきたのは1年前。
「東京出身で、ずっと実家にいたのですが卒業をしてから家で作品を作ろうとなるとスペースが足りず……。ちょうどタイミングよく同じ多摩美を出た同世代の仲間たちとシェアハウスをすることになったんです。今は一軒家に7人で住んでいます」
めちゃくちゃいい家! さっそく中を案内してもらいました。

「一緒に住んでいるのは、音楽制作をしている人、CGで映像制作をしている人など分野は様々。家というよりもほとんど作業場みたいな感じで、リビングにも機材がたくさんあるんです。寝床は2階ですが、いつも雑魚寝状態でとてもじゃないけどお見せできる環境じゃないです……(笑)」
ビエンくんの作業場はガレージ部分。シェアハウスのメンバーのうち、アート制作をしている3人で分け合って使っています。

彼の定位置はガレージの奥側。ここで、アーティストになったきっかけの話を。

「小学校の頃から絵を描くことが好きで、遊戯王やポケモンのキャラクターを描いて遊んだりしていたんです。それ以来、アニメやフィギュアみたいな人間が想像してつくられた物達に興味を持って絵を書き続けてきました。大学はグラフィックデザイン学科ということもあり、広告関係の会社に就職する友人が多かったのですが、どうも自分は就活をする気になれなかったんです。よく半蔵門にある『アナグラ』というギャラリーで海外のアーティストやいろんなアーティストの展示を見ていました。なんとなくバイトをしながら作品が作れればいいかなと思っていたときに、大学のOBの方々と現役生が集まる飲み会で安田昂弘さんというデザイナーに出会い、アシスタントをさせてもらえることになりました」

安田さんのもとで勉強をし、昨年から1人のアーティストとして活動しているBIENくん。活動が軌道に乗り始めたのは今年に入ってからなんだとか。
「この1年は広告の張り替えのバイトをしたり、知人の展示のお手伝いをしたりしながらなんとか生活をしていました。転機になったのは、今年の5月ごろに「サイドコア」というアートグループの展示の手伝いのために3ヶ月間、会場である宮城県の石巻に行ったことでした。純粋なお手伝いで作品展示の予定はなかったのですが、サイドコアの方に『ビエンも石巻についての作品を作って展示をすればいいじゃん』と言われて。そこで作品を作ったんです」
実際にそのときに作ったものを見せてもらいました。
「石巻にあるスケートパークが会場だったのですが、そこにある廃材をキャンバスにして、ラインを掘り、ペンキを流し込んでいます。普段はキャンバスにラインをペイントしているのですが、また新しい表現ができてすごく面白い体験でした。そのときに現地にあったこういう木(写真真ん中)を見つけて。これはキクイムシが木を食った跡。無規則で、ラインの太さが安定しているところなどが自分の作品とそっくりでびっくりしました(笑)。石巻では自分の作品を客観視することができたし、人に作品を見てもらう楽しさを学べましたね」

キクイムシ! たしかにそっくりだけど、もう一つ彼の作品に似てるなあと思ったのが、デスクに飾ってあったレコードのジャケにもあったホットドッグ。
実はビエンくん、4年前くらいからホットドッグにハマっている。レコードは、音楽制作をしているシェアハウスのメンバーが貸してくれたものらしい。
「大学1年生のとき、家具を買いに行ったIKEAでホットドッグを食べたらすごい衝撃で。それ以来、おいしかったもの、面白いものを見つける度に写真に収めています。基本はシンプルでジャンキーな感じがするホットドッグが好きですね」
好きすぎてiPhoneのカメラロールにはホットドッグアルバムまであります。

ちなみに最近のベストは台湾で食べた一本。
「これは、パンではなく、豚の腸にお米を詰めたバンズで。ハンバーガーでいうライスバーガー的な? 『大腸包香腸』っていう名前もすごいですよね(笑)。味も最高でした!」

ホットドッグに惹かれた理由は「味」だそうだけど、ケチャップとマスタードが描く曲線やつるっとしたフォルムには、やっぱりビエンくんの作品と通ずるものがあるような……気のせい!?

次に、普段の制作の流れも少しだけ見せてもらいました。

彼のペイントの一番の特徴は均一な太いライン。とにかく筆が命。
「そのときどきの作品の規模によって使う道具は変わります。普通の筆とアクリル絵の具、あと車の撥水加工に使うスポンジタイプのコーティング剤の容器も使えます。中の液体を入れ替えたり絵の具を付けて筆として使ったりしているんですが、実はこれが一番安定感があります」
道具が揃ったら下書き。
「僕はいつも大きなキャンバスに描くことが多いので、まずは普通の紙に下書きを。デスクがありますが、窮屈なのと床で描く姿勢に慣れていて、床じゃないと落ち着かないんです(笑)」
下書きのラフも全部取って置いてあるというビエンくん。その数、300枚以上!
その後は、いよいよ本番のキャンバスに描いていくわけだけど、目下、むちゃくちゃ大きな作品制作中で、現在は大田区京浜島にある「サイドコア」が主催するスタジオでも作業しているんだとか。

最後の話題は、これからのこと。
「KAWSやバンクシーのようなポップでスター性のあるアーティストも好きなのですが、尊敬している人に、イタリアのジョルジョ・モランディという画家がいます。彼はアトリエにこもって花瓶などのモチーフやアトリエからの風景をひたすら描き続けた、ちょっと変態チックな人なのですが、家を抽象的に記号的に描いているのを見ると、僕が目指していることを先に表現してくれているような気がするんです。今年は国内で展示をさせていただく機会も多かったですが、今後は彼の生まれたイタリアなどヨーロッパ圏にいってみたり展示もしてみたいですね」
12月10日まではワタリウム美術館のカフェ内で作品を展示、さらに新しい展示の予定もあるらしい。名前の由来の通り、鼻炎に負けず世界進出に向けて頑張ってください!