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第41回 井草ワニ園 小林功さん

こばやし・いさお|東京都生まれ。飲食会社を経て2013年、井荻にグラノーラ専門店『home&oats』をオープン。2016年に上井草に移転、グラノーラと古書の店『井草ワニ園』としてリニューアル。◯東京都杉並区上井草2-38-10 ☎︎080•3736•5165 11:00〜19:00、土・日・祝〜17:00 無休

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます!

訪れたのは、愛しのサンドイッチ店『カリーナ』がある上井草。ごめんなさい、正直そのイメージしかなかった街なのだけど、ありましたよ、“ワニ園”! 『井草ワニ園』は動物園ではなく、グラノーラと古書を売るお店。今回は店を一人で切り盛りしている店主の小林功さんに話を聞きました。レコードと古着が大好きな小林さん、ポパイのレコードとオリーブスウェットで登場です。

店があるのは西武新宿線、上井草駅南口から商店街に入って徒歩3分の場所。
 
レコードが流れる店内の半分はグラノーラをイートインできるテーブル席、もう半分は本棚。グラノーラの甘くてあったかい香りして、ものすごく落ち着く。

 
 
店に並ぶグラノーラは常時10種類ほどで、そのすべてを店にあるキッチンで手作り。どれもドライフルーツやナッツを使用、ほうじ茶フレーバーなんていう目新しいものや季節限定のものまであって、これからの季節は小豆を使った新作が並ぶんだって! お持ち帰りもできるし、イートインではヨーグルトとアイスを一緒に食べられる(¥400)。ザックザックの食べ応えで、時間がないときにササッと食べる朝ごはんのイメージとはちょっと違うかも。

もともとグラノーラだけを作っていた小林さんはなんで古書も店に置くようになったんだろう。

「移転をすることになり、以前よりも店が広くなったんです。そのスペースを活かしたいなと思ったのがきっかけです。あと、もともとグラノーラを買ってくれるのはお母さん方が多く、そんなお客さんが気軽に手に取れる絵本があればいいなと思ったのもあります。店にあるのは僕がセレクトをした絵本と料理に関する本が基本で、知り合いの古書店『一角文庫』が選んでくれた文学や美術の本も売っています」

とはいえ、小林さんは昔から読書家ってわけではなかったらしい。
「古書を扱うようになった今も、難しい文学とかにはまだ抵抗があって……見た目に楽しい絵本はそんな僕にもぱっと読めて、すごく親しみやすいです。古着やレコードが好きで何かを集めたりする欲がもともとあったので、絵本はそういう欲を刺激しやすかったのかもしれないですね。実際に読んでみると、画だけじゃなくて内容も面白い。大人のほうが子どもの本から学べることもあるんです」
そういって見せてくれたのが長谷川集平さんの『むねがちくちく』。

「これはある女の子2人が休みの日に『ウミウシを見に行こう』と約束する物語です。場所を具体的に相談しなかったので、1人はウシの言葉につられて動物園に行き、水族館に向かったもう一人をずっと待ち続けるんです。言葉のあやですれ違ってしまう場面は、大小関わらず生きていたら必ずありますよね。大人だったら『もう面倒だしいいや』と思って放置してしまうような些細なことも、純粋な子ども時代には大きなことだったなと思い出させてくれます」
小林さんいわく、絵本の楽しみは文化の歴史を知ることができるところだとか。

「これは五味太郎さんの『でんわのおはなし』という作品。電話線でつながった電話はまだまだ僕たちにとっては馴染みがありますが、もう知らない子どももいるかもしれない(笑)。にも関わらず、時代を超えて今でも売れるのは、僕たちが子どもの頃に読んでいた、見覚えのあるものがほとんどなんです。絵本は読み聞かせをすることも多いので、お母さんが『昔はこうだったんだよ』なんていいながら子どもに教える役割もあるのかもしれないですね」

ちなみに今、日本中を沸かせているパンダにちなんで、絵本をそのままお面として楽しめる1冊も見せてくれました。

そしてもう一つ、忘れてはならないがグラノーラが並ぶ、キッチン前の料理本コーナー。

「実は僕自身グラノーラみたいにシンプルなものしか料理しないんです(笑)。なので、レシピ本を置きつつも、その多くがちょっと突っ込みどころのある一昔前の本が多い。昭和に作られた料理本は、テーマ、見た目ともにインパクトのあるものが多いんです。それを参考に作るかと言われたら、絶対作らないものがほとんど(笑)。どこか絵本にも通ずる、ストレートに画が強く、内容も単純に頭に入ってくるものがたくさんあります。『ちくわ百珍』(写真下)なんて、実際には切り方や飾り方に関する記述がほとんどなのに2冊出ていますから、熱量がすごいですよね」
写真中央の『圧力鍋のお惣菜』も、鍋を実際に切って中身を見せちゃってるし、当時の技術的な問題もあるかもしれないけど、なんかちょっと狂気を感じる。

というわけで今月もディグって行きます!

1st DIG『豆腐100珍NOW』
まずは、正月疲れした胃になんだか優しそうな豆腐の本を。タイトルからすごい。中のレシピはもちろんすべて豆腐なのだけど、開いても開いても100ページ強、全部白くて、もはや現代アートのように楽しめる。

2nd DIG『さあ、しゃしんを とりますよ』
「こちらは写真館が舞台のお話。五味太郎さんの『でんわのおはなし』同様、もしかしたら子どもにはすごくレトロに感じるかもしれませんね。記念写真を素敵に撮るために、被写体の夫婦にいろんなものを持たせていくのですが、やりすぎてとんでもないことになってしまう物語です」
シンプルが一番!

3rd DIG 『サラリーマンのお弁当』
働く男たちの楽しみの一つといったらランチ。そのレシピ本も昭和になるとすごいことに。
「ダイエット食としてクレープを提案していたり、なかなか我々には思いつかないですよね」

最後に、みなさんが気になっていたであろう店名の由来を聞くと……。
「以前は『home&oats』という名前だったのですが、街にはグラノーラ屋さんが一軒だけだったので、誰もお店の名前で呼んでくれなくて(笑)。バンドのダリル ホール&ジョン オーツにかけて付けた名前に誰も気づくこともなく……移転と同時にみんなが覚えやすい名前に変えたんです。意味は特にありません!」
ズコー!

もしかしたら、本好きといえども絵本も料理本もちょっと自分には関係ない気がして手に取らなかった人が多いかもしれない。でも、どっちも手にとってみるとここのグラノーラ同様、噛めば噛むほど味があるジャンルだった!

写真・文 飯野僚子