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第43回『古書サンカクヤマ』粟生田由布子さん

 
あわうだ・ゆうこ|CDショップ、吉祥寺の古書店を経て2015年に『古書サンカクヤマ』をオープン。◯東京都杉並区高円寺北3-44-24 ☎︎ 03・5364・9892 12:00〜21:00水休

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます!

今回やってきたのは高円寺にある『古書 サンカクヤマ』。
店主の粟生田由布子さんに話を聞きました。

店があるのはJR高円寺駅の北口を出て、商店街を5分ほど進んだところ。粟生田さんいわく、高円寺の北口エリアは地域に根付いた商店やスーパーマーケットもあって、どちらかと言うと地元の人で賑わう場所なんだとか。
確かに、取材の日も店にはおじいちゃんやおばあちゃんが古いCDや百科事典の査定に来ていたり、かなりアットホームな雰囲気。とはいえ、店に入るとただの街の古本屋さんってだけではないみたい。

 

ラインナップはファッション・文学・漫画・映画・音楽・写真・アートに関する本が約5000冊に、レコードやおもちゃまで! 
そもそもこの店をオープンしたきっかけはなんだろう。

「もともと10代の頃から音楽、映画、本が好きで、その中でも特に音楽に思い入れがあってCD屋に勤めていたんです。でも、音楽だけに向き合うと好きな分、辛くなってしまうこともあり、当時はよく息抜きで古本屋さんに通っていました。その中で次に仕事にするならば本に関することをと思って古本屋さんになることにしたんです」

 
 

「レコードは店のオープン当初からあって、今でも基本はミュージシャンのマネージャーをしている夫のセレクト。最初は、古本屋にあるレコードって期待されていないような気がして、定番のものと合わせて、レアだったりマニアックなものを安く揃えるようにしました。本に関しては店を開く前から私が好きだった文学や民俗学に関連して、太宰治や三島由紀夫、水木しげるのような人たちの作品を中心にカルチャーに関するものを置いていたんです。それが店にお客さんが来るようになって、次第にCDやレコードだけ見に来てくださる音楽好きの方や、レコードや音楽に関係する本を売りに来てくれる方が増えて今のラインナップになりました」
普段から“完全な粟生田さんのセレクト”にならないように本を選んで、買取りも歓迎している『サンカクヤマ』。それでも音楽好きな人が立ち寄るのは、類は友を呼ぶ的な、この店から出る音楽愛をお客さんが嗅ぎとってしまうからなのかも。
取材の日にBGMで流れていたシンガーソングライター カネコアヤノの「Home Alone」もちょっと気怠い声と歌詞が最高だったし……(店でも販売用の音源を発見!)。

「音楽は色んなジャンルが好きでロックも聞くけど、店のBGMは耳ざわりが心地いいものを選ぶようにしています。特にティム・バックリーやフアナ・モリーナがお気に入り。穏やかでその人の人柄が声に出ているような気がするんです。他にも映画『スタンドバイミー』やウェスアンダーソンの作品のサントラも好きでよく流していますよ」
そんな粟生田さんは本から音楽を選ぶこともあるとか。
 
「次はどんな曲を聴こうって思ったときに、雑誌の後半にある音楽レビューを読むのが好きなんです。誰かの言葉から音を想像して、試し聞きせずに買ってみる。実際に聴いてみて自分には合わないことも、レビューを書いた人とは全くその曲を聴いて感じたことが違うことだってある。でもそれがとても楽しいんです」

 
「実際、雑誌だけでなくてレビューをまとめた本もあるんですよ。これは音楽プロデューサー桑原茂一さんが発行するフリーペーパー『dictionary』の連載のレビューをまとめたもの。新しい音楽と出会えるだけではなくて、選曲家がとても豪華というのも楽しいです。私自身、選曲した人の中にも知らない人がいたりして発見がありました」
実際に見てみると藤井フミヤにヤン富田、スチャダラのアニなど豪華すぎるラインナップ! ちなみに藤井フミヤさんが選んでいたのはジャズシンガー、ニーナ・シモンのアルバム『My Baby Just Cares for Me』からのラブソング。
音楽で人を感動させる人が選ぶ曲なんてなおさら聴きたくなる。

というわけで今月もディグって行きます!

1st DIG『ビックリハウス』
1974年から1985年まで発行されたサブカルチャー誌。パロディと読者による寄稿がメインのめちゃくちゃな内容だけど、鈴木慶一と高橋幸宏の対談だったり矢野顕子の自伝だったりと今改めて読みたい雑誌。

2nd Dig『妖怪ハンター』諸星大二郎
粟生田さんの一押しである民俗学系から、親しみやすい漫画を一冊。主人公の考古学者が神話や伝承、おとぎ話を再検証し、その中で怪異事件に巻き込まれていく物語。子供の頃水木しげる作品に親しんだシティボーイは、大人になったら諸星大二郎を!

3rd Dig『RARE GROOVE A to Z』

ヒップホップのサンプリングにも使われるような昔のソウルやファンク、ジャズの楽曲を再評価したジャンル「レアグルーヴ」のレビューガイド。著者の言葉だけじゃなくてジャケット写真もカラーで載っているからさらに音への想像が広がりそう。こんな感じでジャンルごとにまとまっていることが多いから、これなら自分の興味から選びやすくて空振りも少ないかも!

本は本、音楽は音楽。どっちもつまらない日常から抜け出す手伝いをしてくれる、頭をリセットしてくれる娯楽のお供で、近しいけど別々の存在。でも、粟生田さんに会って言葉から音を想像するのって改めて素敵なことだと思ったし、普段オマケ的に考えていた音楽のレビュー欄もなんか特別に思えて来た!