マガジンワールド

第44回 『books moblo』荘田賢介さん

しょうだ・けんすけ|編集プロダクションを経て、2011年に古書と新刊を扱う『books moblo』をオープン。2012年より、イベント「ブックカーニバル in カマクラ」も主催。○神奈川県鎌倉市大町1-1-12 WALK大町Ⅱ 2F-D ☎︎0467•67•8444 10:00〜18:00 月休 

「本が読みたいなあ」って思うときほど、面白い本が見つからなかったりするから不思議だよね。だったらいっそ街に出て、本選びのプロにおすすめを聞いてしまおう!
このブログでは、本が大好きな人たちのお店に行き、本を読むこと、探すこと(Diggin’ Books)の魅力を教えてもらいます。今月も張り切って行ってきます!

本誌『サーフボーイと夏休み。』の取材で一足先に海に遊びに行ってきて、あることに気がついた。砂浜で本を読むのって最高に気持ちがいい! そう思うのは私だけじゃないのか、実際に海辺の街にゆかりのある文士はたくさんいて、鎌倉も作家に愛された街の一つ。かつては芥川龍之介や川端康成など蒼々たる作家が住んでいた文学の街でもあるのだ! 
この夏は湘南の海に本を持って遊びに行こう! というわけで今回お邪魔したのは鎌倉にある『books moblo』。店主の荘田賢介さんに話を伺いました。 

店があるのは鎌倉駅東口、鶴岡八幡宮から海へと続く大通りを一つ入ったところ。
海を謳った詩人ウチダゴウさんの作品の一節がお出迎え。
 
 
 

こぢんまりとした店内には、文学やアート、絵本などの古書を中心に、荘田さんがセレクトした日本全国のリトルプレスも。ちょっと木の香りがする空間は、東京の書店と比べてのんびりした雰囲気が漂っている……気がする。

壁にずらっと並んだ古書を見てみると、ちょっとオカルト臭のするセレクトの「鳥肌本」、平岡正明やボブディランに関する本が並ぶ「毒にも薬にもなるんだぜ! 音楽は。」など、なかなか独特なジャンル分け。
「店は7坪という限られた空間。文学、芸術のような普通のカテゴリ分けで本を置くとスペースが足りなくなってしまうので、本に形容詞をつけることにしました。仕入れによってちょっとずつ名前を変えているのですが、今のお気に入りは『男の背中、男の哀しみ』(笑)。意外にも女性の方がこのジャンルから買っていくんです。時々立ち読みをしたお客さんが、『男の背中〜』からとった本を『少年の日』カテゴリの棚に本を戻すみたいなことがあるのですが、お客さんによって本に対する感じ方が違うのは面白いなと思って、そのまま並びを直さないことがほとんどです」
『男の背中、男の哀しみ』の棚には、湘南エリアがお好きな村上春樹さんの作品や海を愛したヘミングウェイのタイトルも。海辺で読んだら気持ちが良さそうだね。

こうしたジャンル分けは本の内容を理解しないとできないし、荘田さんは読書が本当に好きなんだなあと思いきや、元々あまり本を読まなかったのだとか。

 
 
「学生時代はカバンに本を1冊入れておけばモテそうだな、という不純な動機で本を持ち歩いていたくらいで、読書はしなかったんです。読むよりも見るのが好きで、鈴木成一さんや祖父江慎さんのようなブックデザイナーが作った特徴のある装丁の本を買って収集欲を満たしていました。今店に置いている詩人・串田孫一さんの『心の歌う山』という本の装丁も変わっていて好きですね。今ではあまり見かけない箱入りで、さらに蓋を開けると『君は、山との別れをもっと惜しんでもよかった』というなかなかパンチのある一言。ここまでお金をかけた装丁は今の時代には作れないです」

本はあまり読まなかったけど、本への愛は強い荘田さん。そもそもなんで本屋さんに?
「以前は編集プロダクションに務め、雑誌やカタログを作っていたんです。でも忙しい毎日を過ごす中で、次第に興味は本を作ることよりもそれを売る場所の方に移って行いきまして……7年前にこの店を開くことにしました。最初は、もともと住んでいた中央線沿いに出店も考えていたのですが、この辺りで物件を探したところ大きな書店は少ないけれど、個人経営の小さな古書店が結構あって。地元の人に本を買うという文化が根付いているんだなと感じました」

最初にも書いたように、鎌倉は文学の街。それは世界でも知られているようで、外国人観光客が川端康成の本を探しにやってくることもあるんだとか。
そういった鎌倉文士の作品をさらに広めるために、荘田さんは毎年「ブックカーニバル」なるものを2012年から開催している。
「最近では日本全国で一箱古本市のような大きなブックイベントが開催されていますが、それを鎌倉でやろうと思った時に思い出したのが戦前にあった『鎌倉カーニバル』というイベントでした。これは小説家で鎌倉の住人でもあった久米正雄が、フランスの『謝肉祭』に感銘を受けてスタートしたもの。普段執筆活動ばかりしているから、たまには違うことを、という思いで始めたようです。これがなかなかすごいイベントで作家が審査員のミスコンテストや野球大会、パレードと昭和のやりたい放題が詰まっています(笑)。当時は22万人もの人が来場していたそう。それに敬意を評して、『ブックカーニバル』と名付けました。内容は本の販売だけでなく、鎌倉文士の作品や、彼らが贔屓にしていた飲み屋の紹介、今残っている写真の展示など。この街を盛り上げた作家たちの作品を掘り起こして、文化を受け継ぎたいなと思っています。また、今もこの辺りに住む作家や編集者を招いたトークショーなども開催しています」
鎌倉の作家に愛された喫茶店や飲み屋さんは閉店してしまったところがほとんどなのだそうだけど、小町通りにある居酒屋『よしろう』は健在とのこと。
イベントの次の開催は来年の夏! ミスコンは開催されないけど、遊びに行ってみたい。

さぁ、少々、前置きが長くなったけど、今月もディグって行いきます!

1st DIG『鎌倉通信』 横山隆一
 
『フクちゃん』などで知られる昭和の代表的な漫画家・横山隆一も鎌倉を愛した一人。鎌倉でのなんでもない生活を綴ったエッセイ集で、同じく鎌倉に住まいがあった作家・大佛次郎とのやりとりも。ちょっとゆるくて、夏にラムネを片手に読みたい本!

2nd DIG『LONDON unfurled』
 
 

荘田さんが好きな変わった装丁の本から1冊。
「これは『ジャバラ』式の本で、ロンドンの街並みを描いたもの。ジャバラの構造を活かして、右から開くと北へ、左から開くと南に進んでいくんです。『ジャバラ』って言葉の響きがもう最高ですよね」

3rd DIG「こけし時代」
 
鎌倉にあるこけしとマトリョーシカの店『コケーシカ』が発行する雑誌。
「『毎号送ってほしい』と海外からも問い合わせがくるほど、好きな人には堪らない雑誌です(笑)。表紙に木が使われていたり、中のグラビアもこけしが被写体なのに躍動感があったりと面白いですよね。『コケーシカ』にもぜひ遊びに行ってみてください」
なんだか癖になる雑誌だなあと思ったら責任編集を務めるのは沼田元氣さんと聞いて納得。

「本屋さんで手にとって買った本って、どこでどんな時に見つけたのかっていう思い出もついてきて、意外と忘れないものなんですよね」と荘田さん。
とことん海で遊んだら、文学の街でその時の自分にとって特別な本を見つけて帰る……夏の思い出をお土産じゃなく一冊の本に込めるのも、たしかにいいなって思えた。