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第48回 Yohei Chris (22) ソウルシンガー

「好き」に対して夢中になり、日々走り続けている人って、それだけでもう魅力的だ。「シティボーイってどんな人?」という問いに対する答えは人それぞれでいいと思うけれど、彼らに共通しているのは「自分の夢に向かって行動している人」ってことではないでしょうか。このブログでは、気になるシティボーイを毎回1人ピックアップ。彼らの「好き」を追っていきます!

今回のシティボーイはソウルシンガーのクリス君。この春大学を卒業し、夢であった歌手の世界へ突き進もうとしている。
初めて彼に会ったのは一年前、逗子海岸のとあるイベントでのこと。物腰が柔らかい好青年だなぁと話しかけると、歌手だという。「楽曲を配信してて、YoutubeにMVもあるのでもし良ければ」と、教えてくれたのがこの「20(はたち)」という曲。当時の彼の等身大の歌詞が、じんわり胸に響く。ちなみに端正な顔立ちなのでハーフかと思ったが、Yohei Chrisは芸名で、彼は茅ヶ崎生まれの純日本人である。

彼が歌と出会ったのは高校生の時。「僕はずっとサッカーをやっていたんですけど、入った高校のサッカー部が全国レベルの強豪校で、サッカーを辞めてしまって。うちの親は地元でコーチをやるくらいサッカーが好きだったので、僕が辞めた時はわりとがっかりしていました。だからその言い訳じゃないですけど、『今俺はサッカーじゃなくて歌をやってるんだ』って。サッカーから歌って、ちょっと唐突かもしれないですけど、小さい頃、親に言われて習っていたもう一つのものが、エレクトーン教室だったんです。だから音楽なら認めてくれるだろうって」
音楽の中でも歌うことを選んだのは、彼が中学時代、ひどく人の目を気にしていた時期があったことと関係している。「イジメではないんですけど、当時の自分は割とイジられる方で、些細なことだったのかもしれないですけど、それが積み重なっていくうちに、何かをしたら周りの人にまた言われるんじゃないかと怖くなってしまって。でも、そんな自分を変えたいとはずっと思っていたんです。歌を選んだのは、中心にいる華やかな人ってイメージがあったからです。今考えると幼い考えで恥ずかしいですが(笑)。ボイトレを始めて、音楽を通していろんな人と出会ううちに、人の目を気にせず、積極的に行動出来るようになっていきました」。シンガーとしてのデビューも、録音した音源を自ら今の事務所に送ったのがきっかけだったそうだ。

大学卒業後は就職せず、音楽活動に専念するというが、芸の世界はきっと簡単ではないはず。勝手に心配していると、「ライブも積極的にやっているんですけど、今は流しもやっています」。さらっと笑顔で言ったけど、流しってあの流し?
「はい、飲み屋でお酒を飲んでいる人たちの席に行って歌い、その歌が良かったらお金をもらえる、っていうものです。拒否されたり、ヤジが飛んできて心が持ってかれることもあります。だけど、音楽を通して人とコミュニーケーションが取れることがすごい楽しいんですよ。もし良かったら、今度流しの現場で一曲歌わせてください。雰囲気がわかると思いますよ」。たしかに、百聞は一見にしかず。さっそく、吉祥寺で行われる流しの現場に行ってみることにした!

現場の飲み屋さんに到着すると、クリス君が相方を連れて現れた。ギタリストの彼と共に、これからテーブルを一席一席まわり、「一曲良いですか?」と聞いていく。相手はお酒を飲んでいて、一種の興奮状態にあるお客さんたち。不安げに見守っていたけれど、クリス君の謙虚な立ち居振る舞いもあって、話しかけていたおじさんグループはわりとすんなりと受け入れてくれた。

おじさん達に曲目を見せるクリス君。リクエストがあったのはサザンオールスターズの「真夏の果実」、鈴木雅之の「夢で逢えたら」、そしてEric Claptonの「Change the World」。

さて、流しとはどんなものか。実際に見てみると、思った以上に歌い手と聞き手の距離が近い。こんな距離で演奏が聴けて贅沢だなぁ、と思いながら歌を聴く。身体が大きいからか、歌声にパワーがある。半笑いだったおじさん達も次第に顔つきが変わり、聞き入っている様子だ。

それぞれの曲は1〜2分のテレビ演奏スタイル。歌い終わると、おじさん達全員から満足した様子で拍手が。「クイーンはないの? 」と名残惜しそうに投げ銭500円を渡していた。

そして次の席は大学生と思われる男女。クリス君が歌っていたのを見ていたらしく、彼らも快く演奏を受け入れてくれた。リクエストはSuperflyの「愛を込めて花束を」、そしてEXILEの「Lovers Again」。手前の彼は、じっと聞き入っている。

演奏終了後、大学生の彼らからはそれぞれ1,000円が。渡された額は合計で3,000円。つまり、クリス君はこの20分足らずで一気に3,500円を稼いだことになる。時給にすると1万円以上か? と、やらしいことを考えてしまったのだが、丁寧にお礼を言ってお金を受け取る姿を見て、いつも上手くいくわけじゃないんだな、という感じが伝わってきた。この日は計二時間、同じエリアの居酒屋で歌うという。現場にいて思ったのは、精神的にも、体力的にもきっと簡単なことじゃないということだ。

翌日、茅ヶ崎駅で迎えてくれたクリス君。ホームタウンを案内してもらいながら、いろいろ話を聞いてみた。やはり僕らがまず向かったのは海。彼にとって海はずっと身近にあり、感受性を高めてくれた大切な場所だという。のんびりと海岸を歩きながら、昨日の流しのことから聞いてみた。
「流しを始めたのは、ライブイベントでたまたま平成流し組合っていう組合の人に出会ったのがきっかけです。これから学校も卒業して時間も出来るし、まぁ修行じゃないですけど、これも経験だと思ってやってみようかな、ぐらいでした。けど実際にやってみたら思ったより大変なことが多くて(笑)。何組も連続で断られたり、そこまでじゃないですけど邪険に扱われたり、心が折れそうになることはありましたね。けど、自分の歌を聞いてくれる人もちゃんといるんですよ。こないだはOLの方三人の席で歌ったんですけど、一人が自分の曲を聞いた後に泣いてくれて。そういう時は、自分の歌が相手に伝わったんだなって思えるし、すごく嬉しかった。あと、お店ごともそうですけど、歌う街で雰囲気はかなり違います。昨日の吉祥寺は皆さん穏やかに聞いてくれました(笑)。以前、上野で流しをしたのですが、その時は結構賑やかな居酒屋で、リーゼントのおじさん達の席で歌うことになって。その時は歌っている時から『もっと来いよ! 』とか、まぁいい感じのヤジが飛んできて(笑)。 最初はウッて思いました。けど、歌い終わった後は皆さん熱く感想を言ってくれて。最後はこんな酔っ払いの意見を真剣に聞いてくれてありがとう、とも言ってくれて。それも流しの面白いところです」。気づくともう夕暮れに。近くに行きつけのお店があるそうなので、話の続きはそこで聞くことにした。向かったのは、茅ヶ崎駅近くにある、多国籍酒場「SITA」。クリス君はここの常連で、マスターとマスターのお母さんは、彼の音楽活動をずっと応援してくれているという。

「今はライブだったり、流しであったり、いろんな場所で歌う経験をどんどん積もうと思っているのですが、それと並行して曲作りもやっています。「20(ハタチ)」を出してから時間が経ってしまいましたが、最近やっと手応えのあるものが出来てきました」
今後も拠点は茅ヶ崎でやっていくの? と尋ねると、少し間をおいてこう答えてくれた。「茅ヶ崎は自分のホームタウンで、本当に大好きな場所なんですが、もっと多くの人に、自分の歌を知って貰いたいなって思っています。東京でやっていきたいし、世界でもやっていきたいです」。せっ、世界。目標のデカさに少し驚いてしまったけれど、それは決しておおげさなことではない。「目標が世界っていうのは、音楽を通して世界を楽しみたいなっていうことです。流しをやって実感したんですが、やっぱり僕にとって歌はもう一つの言語みたいなもので、コミュニケーションの一つなんですよね。歌を通して、誰かと会話できる、みたいな。だから、歌という言語を持って茅ヶ崎から東京に行って、そこでまた多くの人に出会って、そしていつかは世界でも、っていうのが目標です。その為にはもっと経験積んで、もっと自分だけの歌を作らなきゃいけないから、頑張っていきたいです」

歌うことで、人の目を気にしてばかりの自分から行動する自分へと変われたクリス君。ホームタウンの茅ヶ崎に感謝しつつ、「もっと自分の歌を磨いて、多くの人に出会っていきたい」そう初心を忘れず語る彼の道を、これからも応援したい!

Yohei Chris
Instagram:
https://www.instagram.com/yoheichris_official/
Youtube:

写真(一部 Yohei Chris)・文 : 小野正晴